ワトソンのケアリング理論とは?10のカリタス・プロセスの意味と、トランスパーソナルな関係、実習記録での使い方と例文
ワトソンのケアリング理論は、アメリカの看護理論家ジーン・ワトソン(1940〜)が示した看護理論です。看護の中心を、病気を治すこと(キュア)ではなく、人と人とのあいだで交わされるケアリングに置いたことが特徴で、ヒューマンケアリング理論とも呼ばれます。
1979年の著書『Nursing: The Philosophy and Science of Caring』で10の「ケア因子(carative factors)」を示し、のちにこれを「10のカリタス・プロセス(Caritas Processes)」へ発展させました。日本では『ワトソン看護論 人間科学とヒューマンケア』(医学書院、1992年)として紹介され、2014年に第2版『ワトソン看護論 ヒューマンケアリングの科学』が出ています。
この記事では、理論の考え方、10のカリタス・プロセス、実習記録での使い方を順に整理します。
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ワトソンのケアリング理論の考え方
| 考え方 | 内容 |
|---|---|
| 看護の中心はケアリング | 治療と並んで、その人を一人の人として気づかい、尊重する関わりが看護の本質だと考える |
| 人は心・体・魂がひとつになった存在 | 病気の部分だけでなく、その人の感情や信念、生きてきた意味まで含めて見る |
| ケアリングは、ケアする側も変える | 患者と看護師が互いに影響し合い、看護師自身も関わりを通して成長する |
ワトソンは、患者と看護師が本当に向き合うひとときを「ケアリングの瞬間」と呼びました。そこで生まれる、役割や立場を越えた人と人とのつながりが「トランスパーソナルなケアリング関係」です。
ケア因子から10のカリタス・プロセスへ
1979年の「ケア因子」は、ケアリングを構成する10の要素として示されました。ワトソンはのちに、これをより実践に近い言葉で表した「カリタス・プロセス」に改めています。カリタス(Caritas)は、ラテン語で慈しみや愛を表す言葉です。
ワトソン・ケアリングサイエンス研究所が示す10のカリタス・プロセスは次のとおりです。日本語の訳語は定まっていないため、英語の表現をもとに意味をとって訳しています。
| # | 英語の呼び名 | 意味 | 実習・臨床の場面の例 |
|---|---|---|---|
| 1 | Embrace(慈しみ) | 自分にも他者にも、思いやりと慈しみをもって接する | 忙しいときでも、目を見てあいさつし名前を呼ぶ |
| 2 | Inspire(信念と希望) | その場にきちんと向き合い、相手の信念や希望を大切にする | 「家に帰って畑をしたい」という目標を一緒に大事にする |
| 3 | Trust(自分を越えた存在への感受性) | 自分の内面を見つめる習慣をもち、自分中心の見方を越えて相手に向き合う | 自分が疲れているときこそ、気持ちを整えてから訪室する |
| 4 | Nurture(関係) | 信頼にもとづく、助け合えるケアリングの関係をつくり、保つ | 約束した時間に戻る。できないときは理由を伝える |
| 5 | Forgive(受け止める場) | 良い感情も悪い感情も表してよい場をつくり、相手の話を本気で聴く | 「怖い」「腹が立つ」という言葉を否定せずに聴く |
| 6 | Deepen(創造的な自己) | 知識・経験・感性のすべてを使い、ケアリングの中で問題を解決していく | 決まった手順だけでなく、その人に合う方法を工夫する |
| 7 | Balance(学び) | ケアリングの関係の中で、相手の見方に立って教え、学び合う | 退院指導で、本人の生活に合わせて説明の順番を変える |
| 8 | Co-create(癒やしの場) | あらゆる面で、癒やしにつながる環境をつくる | 音や明るさ、プライバシーに気を配る |
| 9 | Minister(人間らしさ) | 基本的なニーズへの援助を、敬意をもって行い、尊厳を守る | 清拭や排泄の介助で、露出を減らし声をかけながら行う |
| 10 | Open(未知への開かれ) | 精神的なことや、説明のつかないことにも心を開いておく | 「亡くなった夫がそばにいる気がする」という話を、否定せずに受け止める |
10個を順番どおりに行う手順ではなく、ケアリングを見る10の視点だと考えると使いやすくなります。
トランスパーソナルなケアリング関係とは
トランスパーソナルとは、「個人を越えた」という意味です。ワトソンは、看護師が「看護師」という役割だけで患者に接するのではなく、一人の人として相手の内面に関心を向け、相手の体験をその人の見方から理解しようとする関係をこう呼びました。
| 役割だけの関わり | トランスパーソナルなケアリング関係 |
|---|---|
| 決められた処置を済ませることが目的になる | 処置の時間も、相手と向き合う時間として使う |
| 患者の訴えを「症状」として聞く | 訴えの背景にある気持ちや意味にも耳を傾ける |
| 看護師の側の見方で判断する | 相手がその体験をどう感じているかを確かめる |
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ワトソンのケアリング理論を実習で使う
ワトソンの理論は、アセスメントの枠組みというより、関わりの質を振り返るための理論です。実習記録では、行動計画のねらいや、関わりの振り返り・考察で使うことが多くなります。
振り返りで使う問い
| 問い | つながるカリタス・プロセス |
|---|---|
| 私は、その人を一人の人として尊重して接していたか | 1 慈しみ、9 人間らしさ |
| その人の希望や大切にしていることを、知ろうとしたか | 2 信念と希望 |
| 否定的な感情も含めて、話を聴けたか | 5 受け止める場 |
| 環境は、その人が落ち着けるものだったか | 8 癒やしの場 |
| 私自身は、どんな気持ちで関わっていたか | 3 自分を越えた存在への感受性 |
例文(実習の考察)
清拭の際、患者さんが「こんな姿を見られるのは情けない」と話した。私は手順どおりに早く終わらせることに気を取られ、「すぐ終わりますからね」とだけ返していた。振り返ると、患者さんの言葉は、体の清潔だけでなく、自分の尊厳が傷つくことへのつらさの表れだったと考えられる。ワトソンのカリタス・プロセスでいう、基本的なニーズへの援助を尊厳を守りながら行う視点と、否定的な感情を表してよい場をつくる視点が、私には足りていなかった。次は、露出を最小限にしたうえで「恥ずかしい思いをさせてしまってすみません。気になることがあったら言ってください」と気持ちに触れる言葉をかけ、患者さんのペースで進めたい。
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正社員の求人を見るワトソンのケアリング理論を使うときに迷う場面
抽象的で、記録にどう書けばいいか分からない
理論の言葉をそのまま並べると、考察がぼんやりしがちです。「どの場面の、どの言動が、どのカリタス・プロセスに当たるか」を1つに絞って書くと具体的になります。10個すべてに触れる必要はありません。
ケアリングと、ふつうの「優しさ」はどう違うのか
ワトソンのケアリングは、気持ちだけの優しさではなく、知識や技術を使って相手の必要に応えることも含みます。カリタス・プロセスの6(創造的な自己)や7(学び)が、その部分に当たります。
ほかの看護理論と何が違うのか
| こういう条件なら | 向いている枠組み |
|---|---|
| 関わりの質や、相手を尊重できていたかを振り返りたい | ワトソン |
| 苦しみの意味を見いだすことを、患者と一緒に考えたい | トラベルビー |
| 1つの場面で、自分の推測と患者の必要のずれを見直したい | オーランド |
| 看護の原点となる考え方を押さえたい | ナイチンゲール |
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正社員の求人を見るよくある質問
カリタス・プロセスとケア因子は、別のものですか?
同じ考え方を、表現を変えて発展させたものです。1979年に示した10のケア因子を、ワトソン自身がのちにカリタス・プロセスとして言い直しました。学校の資料がどちらを使っているかに合わせて書きます。
10のカリタス・プロセスの日本語訳は決まっていますか?
統一された訳語はありません。教科書や訳書によって表現が違うため、実習記録では授業や指導者が使っている訳語に合わせるのが確実です。
ワトソンの理論は、看護過程の展開に使えますか?
ワトソンの理論は、情報を分類してアセスメントするための枠組みではありません。アセスメントはヘンダーソンやゴードンの枠組みで行い、関わり方の考察にワトソンを使う、という組み合わせが使いやすいでしょう。
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まとめ
- ワトソンのケアリング理論は、看護の中心を人と人とのケアリングに置く
- 1979年の10のケア因子を、のちに10のカリタス・プロセスとして発展させた
- カリタス・プロセスは、順番に行う手順ではなく、ケアリングを見る10の視点
- 役割を越えて相手の体験を理解しようとする関係を、トランスパーソナルなケアリング関係と呼ぶ
- 実習では、場面と言動を1つに絞り、どの視点に当たるかを考察に書く
参考
- Watson J. Nursing: The Philosophy and Science of Caring. Little, Brown, 1979.
- ジーン・ワトソン著、稲岡文昭・稲岡光子訳『ワトソン看護論 人間科学とヒューマンケア』医学書院、1992年
- ジーン・ワトソン著、稲岡文昭ほか訳『ワトソン看護論 ヒューマンケアリングの科学 第2版』医学書院、2014年
- Watson Caring Science Institute. Ten Caritas Processes. https://www.watsoncaringscience.org/files/PDF/WCSIProfile.pdf