ナースの勉強部屋

トラベルビーの看護理論とは?「人間対人間の関係」の5つの位相と、苦難・希望・意味の捉え方、実習での使い方と例文

トラベルビーの看護理論とは?「人間対人間の関係」の5つの位相と、苦難・希望・意味の捉え方、実習での使い方と例文

トラベルビーの看護理論は、アメリカの看護理論家ジョイス・トラベルビー(1926〜1973)が示した看護理論です。看護を、「患者」と「看護師」という役割どうしではなく、一人の人間と一人の人間との関係(人間対人間の関係)のなかで行われるものと捉えました。

1966年の著書『Interpersonal Aspects of Nursing』(第2版1971年、邦題『人間対人間の看護』)で示され、病気や苦しみの体験に意味を見いだせるよう助けることを看護の目的に含めた点が特徴です。精神科の看護に携わった経験をもとに、精神科医ヴィクトール・フランクルの考え方の影響を受けたとされています。

この記事では、理論の中心にある考え方、人間対人間の関係の5つの位相、苦難・希望・意味の捉え方、実習での使い方を順に整理します。

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目次
  1. トラベルビーの看護理論の考え方
    1. 「患者」というレッテルを使わない理由
  2. 人間対人間の関係の5つの位相
    1. 共感と同感の違い
  3. 苦難・希望・意味の捉え方
  4. トラベルビーの看護理論を実習で使う
    1. 記録で使う問い
    2. 例文(実習記録の考察)
  5. トラベルビーの看護理論を使うときに迷う場面
    1. ペプロウとはどう違うのか
    2. 個人的な関係になりすぎないか
  6. よくある質問
    1. トラベルビーの理論は、どんな患者に使いやすいですか?
    2. 5つの位相は、短い実習期間でもすべて進みますか?
    3. 「同感」は、相手に同情することですか?
  7. まとめ
  8. 参考

トラベルビーの看護理論の考え方

トラベルビーは、看護を次のように定義しました。

看護とは、対人関係のプロセスであり、それによって専門職である看護師が、病気や苦難の体験を予防したり、それに立ち向かったりするよう、そして必要なときにはいつでも、それらの体験のなかに意味を見つけだすよう、個人や家族、あるいは地域社会を援助するものである。

この定義から、理論の柱は次の3つに整理できます。

柱 内容
人間対人間の関係 「患者」「看護師」という役割やレッテルを超えて、互いを一人の独自な人間として知り合う関係が看護の土台になる
苦難と意味 病気は苦難の体験を伴う。看護は、苦難を避けられないときにも、その人がそこに意味を見いだせるよう助ける
コミュニケーション 関係は、言葉と言葉以外の両方のコミュニケーションを通じて築かれる。看護師は意図的に関わる

「患者」というレッテルを使わない理由

トラベルビーは、「患者」「看護師」という言葉が、相手を一人の人としてではなく、役割や型(ステレオタイプ)として見てしまう原因になると考えました。「302号室の胃がんの患者さん」として見ている間は、人間対人間の関係は始まらない、という考え方です。

人間対人間の関係の5つの位相

トラベルビーは、人間対人間の関係が次の5つの位相を経て築かれると考えました。

位相 何が起きるか 看護師がすること
1. 最初の出会い 互いに第一印象をもつ。この時点では、相手を「患者」「看護師」という型で見ている 第一印象や思い込みに気づき、相手を一人の人として知ろうとする
2. 同一性の出現 互いの独自性が見え始め、型ではなく「この人」として相手を捉えるようになる 相手の話し方、価値観、生活の背景など、その人らしさに目を向ける
3. 共感 相手の気持ちや状況を、自分のことのように理解できる段階 相手の内面を理解しようとする。ただし、自分と相手を混同しない
4. 同感 共感から一歩進み、相手の苦しみを和らげたいという気持ちが生まれ、行動に移す 苦しみを軽くするための具体的なケアを行う
5. ラポール ここまでの過程を経て、互いに信頼し合い、つながりを感じられる関係ができる 関係を保ちながら、相手が苦難に向き合い、意味を見いだせるよう支える

ラポールはいきなり作れるものではなく、4つの位相を経た結果として生まれると考える点が、この理論の要です。「ラポールを形成する」を看護計画の最初に書くのではなく、どの位相まで進んでいるかを評価する、という使い方になります。

共感と同感の違い

共感 同感
中心にあるもの 相手を理解すること 相手の苦しみを和らげたいという気持ち
行動 理解しようとして聴く 苦しみを軽くするために動く
例 「手術が怖いのは、前の手術で痛みが強かったからなのだ」とわかる 痛みへの不安について医師と相談し、鎮痛の方法を本人に説明する

苦難・希望・意味の捉え方

トラベルビーの理論では、次の3つの概念がアセスメントの手がかりになります。

概念 内容 観察・聴取の例
苦難 身体の痛みだけでなく、心や人間関係の苦しみも含む。軽い不快から、何も感じなくなるほどの深い苦しみまで幅がある 「どうして自分が」という言葉、ケアへの無関心、表情の変化
希望 目標に向かって、いまより良くなりたいと願う気持ち。他者への信頼と結びついている 退院後にやりたいこと、会いたい人、頼れる人の存在
意味 病気や苦難の体験のなかに、その人が見いだす意味。看護師が与えるものではなく、本人が見つけるもの 病気になって考えたこと、大切にしたいこと

意味は看護師が教えるものではないと、トラベルビーははっきり述べています。看護師ができるのは、本人が自分の体験を語り、意味を見つけていく過程に付き添うことです。

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トラベルビーの看護理論を実習で使う

記録で使う問い

問い 理論のどこにつながるか
私はこの人を、型(病名・年齢・部屋番号)で見ていないか 「患者」というレッテル
いま関係は、5つの位相のどこにあるか 5つの位相
この人の苦難は、身体・心・人間関係のどこに強く出ているか 苦難
この人の希望や支えは何か 希望
私の言葉と態度は、関係を進めるものだったか コミュニケーション

例文(実習記録の考察)

受け持ち初日、「肺がん術後の70代男性」という情報だけで、静かな人だと思い込んでいた。2日目に趣味の釣りの話を聞くと、身を乗り出して話し、「早く海に戻りたい」と話した(同一性の出現)。3日目、ドレーンが抜けないことを「このまま釣りにも行けなくなるのでは」と心配していると分かった(共感)。担当看護師と相談し、ドレーン抜去の見通しを医師から説明してもらう場を設けた(同感)。退院後の希望である釣りを手がかりに、歩行練習の目標を一緒に決めていきたい。

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トラベルビーの看護理論を使うときに迷う場面

ペプロウとはどう違うのか

ペプロウ トラベルビー
関係の見方 患者と看護師という役割どうしの関係が、段階を経て進む 役割を超えた、人間と人間の関係
段階 方向づけ・同一化・開拓利用・問題解決(関係の始まりから終わりまで) 最初の出会い・同一性の出現・共感・同感・ラポール(関係が築かれるまで)
看護の目的 患者が病気の体験から学び、成長すること 病気や苦難に立ち向かい、そこに意味を見いだすこと
向いている場面 関係のつくり方や、かかわりを振り返るとき 慢性疾患、がん、終末期など、苦難や喪失と向き合う人に関わるとき

ペプロウの理論はペプロウの看護理論で解説しています。

個人的な関係になりすぎないか

人間対人間の関係は、友人どうしの関係とは違います。トラベルビーは、看護師が専門職として意図的に関わることを前提にしています。相手を一人の人として理解しながらも、関わりの目的は相手が苦難に向き合えるよう助けることにある、と押さえておきます。

よくある質問

トラベルビーの理論は、どんな患者に使いやすいですか?

慢性疾患やがん、障害、終末期など、長く続く苦しみや喪失と向き合っている人に関わるときに使いやすい理論です。精神看護の実習でも、関係のつくり方を考える枠組みとして使われます。

5つの位相は、短い実習期間でもすべて進みますか?

すべての位相まで進まないこともあります。トラベルビーの理論では、関係がどの位相にあるかを評価すること自体に意味があります。「同一性の出現まで進んだ」と書けるだけでも、関わりの振り返りになります。

「同感」は、相手に同情することですか?

似ていますが、同じではありません。同感は、相手の苦しみを和らげたいという気持ちをもち、それを具体的なケアの行動に移すことです。相手を気の毒に思うだけの同情とは区別されます。

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まとめ

  • トラベルビーの看護理論は、看護を「人間対人間の関係」のなかで行われるものと捉える
  • 「患者」「看護師」というレッテルを超えて、互いを一人の独自な人間として知り合うことが土台になる
  • 関係は、最初の出会い・同一性の出現・共感・同感・ラポールの5つの位相を経て築かれる
  • 看護は、病気や苦難に立ち向かい、そこに意味を見いだせるよう助ける。意味は本人が見つけるもの
  • 実習では、関係の位相と、苦難・希望・意味を手がかりに記録を書く

参考

  • Travelbee J. Interpersonal Aspects of Nursing. 2nd ed. F.A. Davis, 1971.
  • ジョイス・トラベルビー著、長谷川浩・藤枝知子訳『トラベルビー 人間対人間の看護』医学書院