ナースの勉強部屋

ベナーの看護論とは?初心者から達人への5段階の特徴と、クリニカルラダーとの関係、実践の振り返りでの使い方と例文

ベナーの看護論とは?初心者から達人への5段階の特徴と、クリニカルラダーとの関係、実践の振り返りでの使い方と例文

ベナーの看護論は、アメリカの看護理論家パトリシア・ベナーが示した、看護師が経験を通して熟達していく道筋を5つの段階で説明した理論です。1984年の著書『From Novice to Expert』(邦題『ベナー看護論 初心者から達人へ』)で発表されました。

ほかの看護理論の多くが「患者をどう見るか」を扱うのに対し、ベナーが見たのは看護師自身の実践の力がどう育つかです。そのため、実習よりも、新人教育・クリニカルラダー・事例の振り返りで使われる場面が多い理論です。

この記事では、5段階の特徴と見分け方、クリニカルラダーとの関係、振り返りでの使い方と例文を順に整理します。

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目次
  1. ベナーの看護論の考え方
  2. 初心者から達人への5段階
    1. 段階を見分けるときの手がかり
  3. ベナーの看護論とクリニカルラダーの関係
  4. ベナーの看護論を実践の振り返りで使う
    1. 振り返りで書く4つのこと
    2. 例文(2年目の振り返り)
  5. ベナーの看護論を使うときに迷う場面
    1. 自分は何段階か、はっきり決められない
    2. 達人の判断は「勘」ではないのか
    3. ほかの看護理論と何が違うのか
  6. よくある質問
    1. ベナーの看護論は、看護学生にも関係がありますか?
    2. 段階は必ず上がっていくのですか?
    3. ベナーの段階と、ラダーのレベルは同じですか?
  7. まとめ
  8. 参考

ベナーの看護論の考え方

ベナーは、熟練した看護師や新人看護師、看護学生への面接と参加観察をもとに、臨床の実践の中にある知識を明らかにしようとしました。もとにしたのは、哲学者のヒューバート・ドレイファスと、工学者のスチュアート・ドレイファスの兄弟が示した技能習得のモデルです。

考え方 内容
実践の知は経験から育つ 教科書の知識(知ること)だけでなく、実践しながら身につく知(できること)がある
熟達は段階で進む 規則に従って動く段階から、状況全体を直観的につかむ段階へ移っていく
経験とは、年数ではない 同じ年数でも、先入観が実際の状況で問い直された体験があるかどうかで差が出る

「何年目か」ではなく「状況をどうつかんでいるか」で段階を見る点が、ベナーの看護論の要です。

初心者から達人への5段階

『ベナー看護論 新訳版』では、5つの段階を次の訳語で示しています。

段階 原語 状況のつかみ方 現場での姿の例
1. 初心者 Novice その状況の経験がなく、教わった規則や手順に従って動く。状況に合わせて規則を変えることが難しい 看護学生や、経験したことのない領域に異動した直後の看護師
2. 新人 Advanced Beginner 何度か経験した状況の中で、繰り返し出てくる大事な側面に気づけるようになる。ただし優先順位はまだつけにくい 先輩に「何から見ればいいか」を確認しながら動く
3. 一人前 Competent 自分で目標や計画を立て、意識的に優先順位をつけて動ける。柔軟さやスピードはまだ足りない 受け持ちを計画通りに回せるが、予定外のことが重なると崩れやすい
4. 中堅 Proficient 状況を部分ではなく全体として捉え、いつもと違う点にすぐ気づく 「なんとなく様子がおかしい」に早く気づき、何を確かめるかが分かる
5. 達人 Expert 規則や手順に頼らず、状況を直観的につかんで問題の中心をとらえる。判断の理由を言葉にしにくいこともある 経験の少ない人には見えない変化を拾い、先回りして動ける

ベナーは、一人前の典型を「同じか似た状況で2〜3年働いた看護師」と説明しています。ただし、年数がたてば自動的に進むわけではありません。新しい領域に移れば、ベテランでもその領域では初心者に近い段階から始まる、というのもこの理論の大事な点です。

段階を見分けるときの手がかり

迷ったときは、次の3つを自分に問うと段階をつかみやすくなります。

問い 段階の目安
手順や規則がないと、次に何をするか決められないか 決められない → 初心者・新人
優先順位を、自分で考えて意識的に決めているか 意識して決めている → 一人前
計画を立てる前に、状況の全体や「いつもとの違い」が見えているか 見えている → 中堅・達人

ベナーの看護論とクリニカルラダーの関係

クリニカルラダーは、看護実践の力を段階で示し、評価や教育に使う仕組みです。日本看護協会は2016年に「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」を公表し、レベルⅠ〜Ⅴの5段階と、「ニーズをとらえる力」「ケアする力」「協働する力」「意思決定を支える力」の4つの力で看護実践能力を示しました。

さらに2023年には「看護職の生涯学習ガイドライン」を公表し、このラダーを拡張した「看護師のまなびサポートブック」を作成しています。その中の「看護実践能力習熟段階」は、新人・Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳの5段階です。

比べる点 ベナーの5段階 日本看護協会のラダー・習熟段階
何を示すか 熟達の道筋(状況のつかみ方の変化) 到達の目安と、評価する行動
段階の数 5段階 5段階(2016年版はレベルⅠ〜Ⅴ、2023年の習熟段階は新人・Ⅰ〜Ⅳ)
使い方 自分や後輩の実践を理解し、振り返る 教育計画・評価・面接の基準にする

どちらも5段階ですが、日本看護協会のラダーはベナーの段階名で定義されているわけではありません。施設によっては、独自のラダーにベナーの段階名や目安の年数を添えているところもあります。自分の施設のラダーがどの版をもとにし、ベナーの段階とどう対応させているかは、教育担当者の資料で確かめるのが確実です。

ラダーのレベルごとの中身は、クリニカルラダーとは?日本看護協会版の5段階と4つの力で解説しています。

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ベナーの看護論を実践の振り返りで使う

ベナーは、看護師が実際に体験した場面を語った記述(範例)を分析して理論をつくりました。振り返りやラダー面接の事例レポートでも、この「範例」の考え方が使えます。

振り返りで書く4つのこと

書くこと 内容
場面 いつ、どんな患者に、何が起きたか
気づいたこと そのとき何に気づいたか。何がきっかけだったか
判断と行動 どう判断し、何をしたか。手順と違う動きをしたなら、その理由
学んだこと 前の自分ならどうしていたか。次に同じ状況が来たら何を見るか

「前の自分ならどうしていたか」を書くと、段階の変化が見えます。ラダー面接で「成長を感じた場面」を聞かれたときにも、この形で話せます。

例文(2年目の振り返り)

術後2日目の夜、患者さんのバイタルサインは前の勤務帯と大きく変わらなかったが、話しかけたときの返事がいつもより遅く、表情に余裕がないように見えた。1年目の私なら、数値に変化がないことで「経過良好」と記録していたと思う。今回は、いつもとの違いが気になり、先輩に伝えて一緒に観察を続け、医師への報告につながった。振り返ると、数値だけでなく、その人のふだんの様子と比べる視点を持てたことが変化だと思う。ベナーの段階でいえば、手順どおりに観察する段階から、状況の中で大事な側面に気づける段階に移りつつあると考える。

場面の選び方や、言葉にするまでの手順は看護観の書き方でも紹介しています。

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ベナーの看護論を使うときに迷う場面

自分は何段階か、はっきり決められない

ベナーの段階は、点数で判定する尺度ではありません。慣れた領域では中堅でも、初めて受け持つ疾患では新人に近い、ということが普通に起こります。「この領域・この場面ではどの段階か」と場面を区切って考えると整理しやすくなります。

達人の判断は「勘」ではないのか

ベナーは、達人の直観を、多くの経験に裏打ちされた状況の理解として捉えています。根拠のない思いつきとは違います。ただし本人が言葉にしにくいため、達人の判断を後輩に伝えるには、場面を一緒に振り返って「何を見ていたか」を言葉にする手間が必要です。

ほかの看護理論と何が違うのか

こういう条件なら 向いている枠組み
自分や後輩の実践の力がどう育つかを考えたい ベナー
ラダー面接や事例レポートで、成長を言葉にしたい ベナー
患者との関係の進み方を振り返りたい ペプロウ
患者の情報を集めてアセスメントしたい ヘンダーソンやゴードン

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よくある質問

ベナーの看護論は、看護学生にも関係がありますか?

関係があります。ベナーは看護学生を初心者の典型として挙げています。実習で手順書どおりにしか動けないのは、この段階では自然なことです。実習の振り返りで「前回と比べて何に気づけるようになったか」を書くときにも使えます。

段階は必ず上がっていくのですか?

年数とともに自動的に上がるものではありません。ベナーは、経験とは時間の長さではなく、先入観が実際の状況で問い直されることだとしています。異動や新しい業務では、いったん前の段階に近い状態から始まることもあります。

ベナーの段階と、ラダーのレベルは同じですか?

同じではありません。日本看護協会の2016年版ラダーはレベルⅠ〜Ⅴで、4つの力ごとに目標が決められています。施設のラダーがベナーの段階をどう取り入れているかは、施設ごとに違います。

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まとめ

  • ベナーの看護論は、看護師が経験を通して熟達していく道筋を示した理論
  • 段階は、初心者・新人・一人前・中堅・達人の5つ
  • 段階は年数ではなく、状況のつかみ方で見る。新しい領域では誰でも前の段階から始まる
  • 日本看護協会のクリニカルラダーも5段階だが、ベナーの段階名で定義されているわけではない
  • 振り返りでは、場面・気づき・判断と行動・学びの4つを、前の自分と比べて書く

参考

  • Benner P. From Novice to Expert: Excellence and Power in Clinical Nursing Practice. Addison-Wesley, 1984.
  • パトリシア・ベナー著、井部俊子監訳『ベナー看護論 新訳版 初心者から達人へ』医学書院、2005年
  • 日本看護協会「生涯学習支援(看護職の生涯学習ガイドライン・看護師のまなびサポートブック)」 https://www.nurse.or.jp/nursing/learning/index.html