【看護技術】清拭(全身清拭・部分清拭)の手順
入浴が困難な患者さんにとって、全身清拭は単に皮膚の汚れを落とす「清潔保持」のケアにとどまりません。温熱効果による血行促進、褥瘡予防、全身のアセスメント、そして信頼関係を築くための重要な看護技術です。
本記事では、新人看護師の方に向けて、清拭の目的や正しい手順、タオルのたたみ方から、点滴ルートがある場合の更衣やケア拒否への対応といった「現場のリアルな悩み」まで、根拠とともに徹底解説します。
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清拭の目的(皮膚清潔・リラックス効果)と事前準備
清拭を実施する際は、単に「身体を綺麗にする」だけでなく、患者さんの身体的・心理的な側面を包括的に捉えることが大切です。清拭の主な目的として、以下の4つが挙げられます。
- 皮膚の清潔保持と感染予防(汗、皮脂、老廃物を除去しバリア機能を保つ)
- 血液循環の促進(温熱刺激と適度な摩擦による末梢血管の拡張・褥瘡予防)
- 全身状態のアセスメント(衣類に隠れた発赤、乾燥、浮腫などを直接観察)
- リラックス効果と爽快感(気分をリフレッシュさせ安眠や療養意欲を向上)
安全かつスムーズにケアを行うため、物品はあらかじめベッドサイドにすべて揃えておきます。
| 準備物品 | 留意ポイント |
| お湯(バケツ・洗面器) | ピッチャーなどでお湯を足せるように準備します。 |
| タオル類 | 部位ごとに使い分けるため、フェイスタオル5枚以上、バスタオル2〜3枚を用意します。 |
| 寝衣(着替え) | 清潔なものをあらかじめ枕元に準備し、着脱をスムーズにします。 |
| 清拭料・保湿剤 | 石けんを使うと拭き取りの手間がかかるため、拭き取り不要な清拭料が便利です。 |
| 手袋・エプロン | 感染予防のため、看護師自身のPPE(個人防護具)を着用します。 |
【環境設定と事前準備のポイント】
| 項目 | 留意点と看護の根拠 |
| タイミング | 食前30分・食後1時間は避けます。食後は消化不良や嘔吐、食前は疲労による誤嚥リスクがあるためです。 |
| 環境整備 | 室温は24℃前後(22〜26℃)に設定し、すきま風を防ぎます。カーテンを隙間なく閉め、プライバシーを保護します。 |
| お湯の温度 | バケツには50〜60℃のお湯を準備します。絞る過程で温度が下がるため、肌に触れる際に適温(40〜42℃)になるよう調整します。 |
| ルート管理 | 点滴、ドレーン、酸素チューブなどが絡まないよう事前に配置を整え、事故抜去を防ぎます。 |
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【部位別】全身清拭の正しい手順と観察ポイント
清拭は「清潔な部位から汚れやすい部位へ」「末梢から中枢へ(静脈還流を促すため)」進めるのが基本です。拭く部位以外はバスタオルで覆い、露出を最小限にして体温低下を防ぎます。
顔・頸部
目は「目頭から目尻」へ一方向に拭き、感染を防ぎます。顔の皮膚は薄いため擦らずに優しく押さえます。首はシワを伸ばして汚れを落とします。
上肢(腕・手)
指先・手首から肩に向かって拭きます。指の間や関節の内側、脇の下は汚れが溜まりやすいため念入りに拭き、爪のチアノーゼや異常がないか観察します。
胸部・腹部
女性の乳房の下は蒸れやすいため、持ち上げて内側まで拭きます。腹部は腸の走行に沿って「の」の字を描くように拭くと、蠕動運動が活発になり便秘予防につながります。
背部・臀部
患者さんに声をかけ、側臥位(横向き)にします。腰から肩へ大きく拭きます。肩甲部や仙骨部は褥瘡の好発部位であるため、発赤(押しても白くならない赤み)がないか入念にアセスメントします。
下肢(足)
足首から膝、大腿へと拭き上げます。足趾間は水虫予防のためにしっかり拭き取ります。片側の腫れや熱感、ふくらはぎの痛みなど、深部静脈血栓症(DVT)のサインがないか必ず確認します。
陰部
感染リスクが高いため必ず専用タオルに替えます。女性は「尿道口から肛門へ(前から後ろ)」、男性は「亀頭から根元へ」拭き、尿路感染症を防ぎます。終了後は速やかに保湿剤を塗布します。
現場のリアルな悩みを解決!清拭Q&A
現場では、教科書通りにいかない場面に多く直面します。よくあるトラブルへの実践的な対応策を紹介します。
Q1. 点滴ルートがあって更衣がうまくできません。
基本は「脱健着患(だっけんちゃっかん)」です。脱がせるときは点滴のない健側から、着せるときは点滴のある患側から行います。患側の袖に点滴ボトルごとルートを通してから腕を通し、抜去に十分注意しましょう。
Q2. 患者さんに清拭を拒否されてしまいました。
羞恥心や億劫さが原因のケースが多いです。無理強いせず「手だけお湯で拭きませんか?」と小さなステップ(部分清拭や手浴)から提案すると受け入れられやすいです。お好きな音楽をかけるなどの工夫も有効です。
Q3. 褥瘡(床ずれ)がある部分はどう拭けばいいですか?
褥瘡周囲の皮膚は非常に脆弱です。ゴシゴシ擦ることは厳禁であり、タオルで「優しく押さえるように」水分と汚れを吸い取ります。創部そのものの処置は医師やWOCナースの指示に従ってください。
Q4. ケアの途中で患者さんが「疲れた」と訴えました。
清拭はエネルギーを消耗します。直ちにバスタオルで保温して休憩を取り、疲労感が強ければ無理をせず、その日は部分清拭にとどめる判断をしましょう。ケアを終わらせることより、患者さんの状態悪化を防ぐことが最優先です。
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まとめ:患者さんの尊厳を守る清拭ケアのポイント
全身清拭は、ただ身体を綺麗にするだけでなく、異常の早期発見(アセスメント)やリラックス効果をもたらす奥深い看護ケアです。
- 温度管理と保温: お湯は50〜60℃で準備し、露出を最小限にして湯冷めを防ぐ。
- 拭き方の原則: 末梢から中枢へ、清潔な部位から汚染部位へ向かって優しく拭く。
- 柔軟な対応: 患者さんの疲労度や状態に合わせ、部分清拭への切り替えや保湿ケアを適切に行う。
日々の業務に追われる中でも、患者さんの尊厳を守り、安楽を追求する視点を忘れないようにしましょう。