ロイの適応看護モデルとは?4つの適応様式と3つの刺激、6段階の看護過程とアセスメントの例文
ロイの適応看護モデルは、アメリカの看護理論家シスター・カリスタ・ロイ(1939〜)が示した看護理論です。人を、周りの環境から受ける刺激に対してたえず適応しようとしている「適応システム」として捉え、その適応を助けることを看護の目的に置いています。
ロイは1960年代後半に大学院で学ぶなかでこのモデルの着想を得て、1970年に論文「Adaptation: a conceptual framework for nursing」で初めて発表しました。その後、著書『The Roy Adaptation Model』(邦題『ザ・ロイ適応看護モデル』)で体系化されています。日本では、病気や入院、手術などで生活が大きく変わった人をアセスメントする枠組みとして、実習や臨床で使われています。
この記事では、モデルの全体像、アセスメントで使う刺激と適応様式、6段階の看護過程、アセスメントの書き方を順に整理します。
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ロイの適応看護モデルの考え方(人を適応システムとして見る)
ロイのモデルでは、人の反応を「入力→対処→出力」の流れで捉えます。
| 要素 | 内容 | アセスメントでの問い |
|---|---|---|
| 入力(刺激) | 人に働きかける内外の環境の変化 | 何が、この人に適応を求めているか |
| 対処機制(コーピング) | 刺激に対処するしくみ。調節器サブシステムと認知器サブシステムの2つ | この人は、どう対処しているか |
| 効果器(適応様式) | 対処の結果が現れる4つの領域 | 反応はどの様式に、どう現れているか |
| 出力(行動) | 観察できる反応。適応反応と非効果的反応に分かれる | その反応は、生存・成長・役割の維持などに役立っているか |
看護の目的は、非効果的反応を減らし、適応反応を増やすことです。そのために、看護師は人そのものを変えようとするのではなく、主に刺激を調整する(増やす・減らす・変える)形で関わります。
2つの対処機制
| 対処機制 | どう働くか | 例 |
|---|---|---|
| 調節器サブシステム | 神経・内分泌・化学的な反応で、自動的に対処する | 出血に対して心拍数が上がる、ストレスで血糖が上がる |
| 認知器サブシステム | 知覚・学習・判断・感情で対処する | 病気について調べる、家族に相談する、つらさを言葉にする |
3つの適応レベル
ロイは、人の適応の状態(適応レベル)を3つに分けています。
| 適応レベル | 状態 |
|---|---|
| 統合 | 各様式の働きがまとまって、ニーズを満たしている |
| 代償 | 対処機制が働いて、乱れを補おうとしている |
| 障害 | 統合も代償も十分でなく、適応の問題が起きている |
ロイの適応看護モデルの3つの刺激
刺激は、行動にどれだけ直接関わっているかで3つに分けます。
| 刺激 | 内容 | 例(術後に「痛くて眠れない」と訴える人) |
|---|---|---|
| 焦点刺激 | いま直面していて、行動にもっとも直接影響している刺激 | 腹部の手術創の痛み |
| 関連刺激 | 焦点刺激の影響を強めたり弱めたりする、ほかの刺激 | 夜間の点滴、同室者のいびき、鎮痛薬を使う時間帯 |
| 残存刺激 | 影響していそうだが、まだ確かめられていない刺激 | 以前の入院で痛みを我慢した経験があるかもしれない |
残存刺激は、情報を集めて影響が確かめられれば関連刺激や焦点刺激に移ります。「確かめられていない」ことを残存刺激として書いておくと、次に集める情報がはっきりします。
ロイの4つの適応様式と集める情報
対処の結果は、次の4つの様式に現れます。アセスメントでは、様式ごとに行動を観察し、適応反応か非効果的反応かを判断します。
| 適応様式 | 何を見るか | 集める情報の例 |
|---|---|---|
| 生理的様式 | 身体の機能が保たれているか | 呼吸、栄養、排泄、活動と休息、皮膚・感染の防御、感覚、体液と電解質、神経機能、内分泌機能 |
| 自己概念様式 | 自分をどう感じ、どう捉えているか | ボディイメージ、身体の感覚、自分らしさ、「こうありたい」という理想、価値観や信仰 |
| 役割機能様式 | 社会の中での役割を果たせているか | 年齢・性別・発達段階に伴う役割、家庭や職場での役割、一時的な役割(患者・会員など) |
| 相互依存様式 | 大切な人との関係で、愛情・尊重・価値を与え合えているか | 重要他者との関係、支えになる人や集まり、面会の様子、頼れる相手の有無 |
生理的様式の9つの要素
生理的様式は、5つの基本的ニーズと4つの複合的なプロセスに分けて見ます。
| 区分 | 要素 |
|---|---|
| 5つの基本的ニーズ | 酸素化、栄養、排泄、活動と休息、防御 |
| 4つの複合的プロセス | 感覚、体液・電解質・酸塩基平衡、神経機能、内分泌機能 |
自己概念様式の2つの側面
| 側面 | 内容 |
|---|---|
| 身体的自己 | 身体の感覚、ボディイメージ |
| 人格的自己 | 自己一貫性(自分は自分だという感覚)、自己理想、道徳的・倫理的・霊的自己 |
役割機能様式の3つの役割
| 役割 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 一次的役割 | 年齢・性別・発達段階で決まる役割 | 60代の男性、思春期の女子 |
| 二次的役割 | 一次的役割から生じる、比較的長く続く役割 | 父親、会社員、介護者 |
| 三次的役割 | 自分で選び、一時的に担う役割 | 患者、地域の役員、趣味の会のメンバー |
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ロイの適応看護モデルの看護過程(6段階)
ロイのモデルでの看護過程は、次の6段階で進めます。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 1. 行動のアセスメント | 4つの適応様式ごとに行動を観察・聴取し、適応反応か非効果的反応かを判断する |
| 2. 刺激のアセスメント | 非効果的反応(または維持したい適応反応)に影響している焦点・関連・残存刺激を特定する |
| 3. 看護診断 | 行動と刺激をあわせて、適応の状態を判断する |
| 4. 目標の設定 | 患者に期待する行動を、観察できる形で決める |
| 5. 介入 | 刺激を調整する(取り除く・減らす・増やす・変える)。対処機制を強める |
| 6. 評価 | 目標の行動が現れたかを確かめ、必要なら1に戻る |
1と2を分けて書くのがロイのモデルの特徴です。行動(何が起きているか)と刺激(なぜ起きているか)を混ぜずに書くと、介入で「どの刺激を調整するか」が自然に決まります。
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正社員の求人を見るロイの適応看護モデルでアセスメントするときに迷う場面
1つの出来事が複数の様式にまたがる
乳がんで乳房を切除した人は、創部の痛み(生理的様式)、ボディイメージの変化(自己概念様式)、仕事に戻れるかの不安(役割機能様式)、夫との関係の変化(相互依存様式)と、4つの様式すべてに反応が出ることがあります。ロイのモデルでは様式どうしがつながっていると考えるので、同じ出来事を複数の様式に書いてかまいません。様式ごとに「何が起きているか」を書き分けます。
適応反応も書くのか
書きます。ロイのモデルは問題だけでなく、うまく適応できている行動も、強みとして維持・強化する対象にしています。「家族の面会があると表情が明るくなる」といった適応反応は、相互依存様式の強みとして記録し、介入(面会の時間を調整する等)につなげられます。
ヘンダーソン・ゴードン・オレムと何が違うのか
| こういう条件なら | 向いている枠組み |
|---|---|
| 学校や病棟で様式が指定されている | 指定された枠組み(自分で替えない) |
| 病気・手術・障害などで生活が大きく変わり、心理・社会面の反応も含めて全体を見たい | ロイ |
| 原因(刺激)を特定して、環境の調整で関わりたい | ロイ |
| 本人ができるようになることを中心に、看護の関わり方の量を決めたい | オレム |
| 日常生活の14の欲求を一つずつ確かめたい | ヘンダーソン |
| 看護診断(NANDA-I)につなげて看護問題を挙げたい | ゴードン |
それぞれの枠組みは、オレムのセルフケア理論、ヘンダーソンの14項目でアセスメントする方法、ゴードンの11項目(機能的健康パターン)でアセスメントする方法で解説しています。
ロイの適応看護モデルのアセスメントの書き方と例文
アセスメントは、行動(S・O情報)、刺激(焦点・関連・残存)、判断(適応反応か非効果的反応か)、看護の方向性(どの刺激を調整するか)の順で書くと、ロイのモデルに沿った文章になります。
例文
生理的様式(活動と休息)の例
術後1日目。「お腹が痛くて夜ほとんど眠れなかった」と話し、日中も目を閉じている時間が長い(行動)。焦点刺激は手術創の痛み、関連刺激は鎮痛薬を22時以降に使っていないことと、夜間2時間ごとの点滴交換、残存刺激として痛みを我慢する考えがあるかを確認中。休息がとれておらず、活動と休息について非効果的反応と判断する。鎮痛薬の使用時間を就寝前に合わせ、夜間の処置をまとめることで関連刺激を減らす。
自己概念様式の例
右乳房切除術後5日目。「もう前の自分には戻れない」と話し、創部を見ることを避けている(行動)。焦点刺激は乳房の喪失によるボディイメージの変化、関連刺激は補整下着などの情報がまだ無いこと、残存刺激として周囲にどう見られるかへの心配が考えられる。身体的自己について非効果的反応と判断する。本人の気持ちを聴く時間をとり、準備ができた段階で補整具の情報を提供する。
相互依存様式(適応反応)の例
80代、脳梗塞で入院中。長男が毎日夕方に面会し、その時間はリハビリの話を自分からする(行動)。焦点刺激は長男の面会。家族との関係が、回復への意欲を支える適応反応になっている。面会の時間に合わせてリハビリの成果を一緒に確認する場をつくり、この適応反応を維持する。
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よくある質問
ロイの適応看護モデルは、どんな患者に使いやすいですか?
病気や手術、障害、入院などで生活が大きく変わり、身体だけでなく、自分の捉え方や役割、人間関係にも影響が出ている人に使いやすい枠組みです。生理的様式だけで終わらせず、残りの3つの様式も見る点が、ほかの枠組みとの違いです。
焦点刺激は1つだけですか?
1つの行動に対して、もっとも直接影響している刺激を1つ選ぶのが基本です。行動が複数あれば、行動ごとに焦点刺激を書きます。
4つの様式すべてを毎回書きますか?
受け持ち開始時に全体を一度確かめ、その後は患者の状態と看護の目標に関わる様式を重点的に見直すのが一般的です。様式で全項目の記入が求められている場合は、その決まりに従ってください。
「適応」とは、我慢して慣れることですか?
違います。ロイのいう適応は、刺激に対して、生存・成長・生殖・熟達(自分の力を発揮すること)などにつながる形で反応することです。痛みを我慢して黙っている状態は、適応ではなく非効果的反応として扱うことがあります。
まとめ
- ロイの適応看護モデルは、人を環境の刺激にたえず適応しようとする「適応システム」と捉える
- 刺激は焦点・関連・残存の3つ。看護は主に刺激を調整する形で関わる
- 反応は、生理的・自己概念・役割機能・相互依存の4つの適応様式に現れる
- 看護過程は、行動のアセスメント、刺激のアセスメント、看護診断、目標の設定、介入、評価の6段階
- アセスメントは、行動、刺激、判断、看護の方向性の順で書く
参考
- Roy C. Adaptation: a conceptual framework for nursing. Nursing Outlook. 1970;18(3).
- Roy C. The Roy Adaptation Model. 3rd ed. Pearson, 2009.
- シスター・カリスタ・ロイ著、松木光子監訳『ザ・ロイ適応看護モデル』医学書院