現病歴と既往歴の違い|迷うケースの判定表と、入院時記録の書き分け例文
現病歴は「今回の入院(受診)の理由になった病気が、いつ始まって、入院までどう経過したか」。既往歴は「それ以外に、これまでかかった病気・けが・手術」。分け方の基本はこれだけです。
迷うのは、時間だけでは分けられない情報です。糖尿病でいまも薬を飲んでいる、5年前に同じ病気で入院した、10年前に胃の手術をした。この記事では、そうした迷うケースの判定表と、1人の患者さんの情報を実際に書き分けた例文を載せます。入院時のアナムネーゼを取る前に一度目を通しておくと、記録を書き直す手間が減ります。
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現病歴と既往歴の違いは「今回の入院理由につながるか」で分ける
「現在か過去か」で覚えると、治療中の持病や過去の同じ病気でつまずきます。看護記録では、今回の入院(受診)理由につながる流れかどうかで分けると迷いが減ります。
| 現病歴 | 既往歴 | |
|---|---|---|
| 書く内容 | 今回の入院理由になった症状・病気の始まりから入院までの経過 | 今回の入院理由とは別に、これまでにかかった病気・けが・手術 |
| 書き方 | 時系列の文章(いつ・何が起きて・どこを受診し・どうなったか) | 病名・時期・治療・現在の状態を箇条書き |
| 書く範囲 | 入院時点まで。入院後のことは経過記録へ | 生まれてから現在まで。治療中のものも含む |
| 情報の出どころ | 本人・家族の話、紹介状、医師の記録 | 本人・家族の話、お薬手帳、紹介状、過去の診療記録 |
現病歴は「物語」、既往歴は「リスト」と考えると、書く形も自然に決まります。現病歴を読めば入院に至るまでの流れが追え、既往歴を見れば治療やケアで気をつける病気がひと目で分かる。この2つが揃っている状態を目指します。
なお、基礎情報(アナムネーゼ)用紙にどんな欄があり、どの順番で並ぶかは施設ごとに決まっています。日本看護協会の「看護記録に関する指針」も、記録の様式に含める項目や順序は各施設で設定するものとしています。以下の判定表は一般的な書き分けの考え方なので、所属先の記載基準や先輩の記録と違うときは、施設の決まりを優先してください。
現病歴と既往歴のどちらに書くか迷うケースの判定表
アナムネーゼで迷いやすい情報を、どの欄に書くかで整理しました。
| 迷う情報 | 書く欄 | 書き方のポイント |
|---|---|---|
| 治療中の持病(高血圧・糖尿病など)で、今回の入院理由とは別のもの | 既往歴 | 病名に「〇年〜、内服治療中」「〇〇クリニック通院中」と現在の状態を添える |
| 治療中の持病が、今回の入院理由に関係している(例: 心不全の持病がある人が心不全の悪化で入院) | 現病歴 | 持病の始まりを現病歴の起点にして、今回の悪化までを時系列で書く。既往歴欄には「現病歴参照」とする施設もある |
| 過去に同じ病気で入院・治療した(再発・再入院) | 現病歴 | 「20XX年に同疾患で入院」と前回の経過を現病歴の冒頭に書く |
| 過去の病気で、今回の入院理由と関係しないもの | 既往歴 | 発症した年(年齢)、治療内容、「治癒」「経過観察終了」などの現在の状態 |
| 手術歴 | 既往歴 | 年・手術名・施設名。今回の病気の手術(前医で手術後に転院など)は現病歴の経過に書く |
| 健診で指摘されたが受診していない病気 | 既往歴 | 「20XX年健診で指摘、未受診」と事実をそのまま書く |
| 前医での検査・治療(今回の病気について) | 現病歴 | 受診日、受けた処置、処方を経過の中に書く |
| アレルギー(薬・食べ物・ラテックスなど) | アレルギー欄 | 既往歴に混ぜない。原因と、出た症状、いつ起きたかを書く |
| 内服薬・服薬歴 | 内服薬(持参薬)欄 | 既往歴に混ぜない。今回の症状に対して始めた薬・変えた薬は、現病歴の経過にも書く |
| 家族の病気 | 家族歴 | 続柄と病名。本人の既往歴に書かない |
| 入院した後に起きたこと | 経過記録 | 現病歴は入院時点で締める |
日本看護協会の指針は、基礎情報に記載する内容として病歴、現在の治療、使用薬剤、アレルギーを分けて挙げています。アレルギーと内服薬を既往歴欄に埋もれさせないのは、このためです。とくにアレルギーは、投薬や処置の前に誰もが確認する情報なので、独立した欄に書きます。
治療中の持病は「既往歴」に書いて、現在の状態を必ず添える
「既往歴=治った病気」と覚えている人は多いのですが、看護記録の既往歴欄には治療中の病気も書きます。治療中の持病を書き落とすと、入院中の内服や食事、検査の準備に影響するからです。
書き落としを防ぐコツは、病名だけで終わらせないことです。
- NG:糖尿病
- OK:2型糖尿病(20XX年〜)。〇〇クリニック通院中、内服治療中。インスリン使用なし
「いつから」「いまどうしているか」があれば、読む人は持病が落ち着いているのかを、記録を探し回らずにつかめます。
今回の入院に関係する過去の病気は、現病歴の起点にする
5年前に心不全で入院し、その後外来に通っていた人が、心不全の悪化で再入院した。この場合、5年前の入院を既往歴に書いて現病歴を「1週間前から息切れ」から始めると、読む人には初めての心不全に見えてしまいます。
今回の入院につながる過去の経過は、現病歴の最初に書きます。「関係があるかどうか」の判断に迷うときは、医師の記録や紹介状で入院時の診断名を確かめ、それと同じ病気・同じ部位の過去の経過かどうかで判断します。それでも迷うなら、先輩や医師に確認してから書きます。看護師が関係を推測して書くことはしません。
現病歴と既往歴を書き分けた入院時記録の例文
架空の患者さんの情報を、欄ごとに書き分けた例です。情報は実際のアナムネーゼと同じように、本人・家族の話とお薬手帳、紹介状から集めた想定です。
集まった情報(メモの状態)
80代女性。3日前から咳と痰、昨日から38℃台の発熱と食欲低下。近くの内科で薬をもらったが改善せず、今日、紹介状を持って受診し、肺炎の診断で入院。高血圧で15年前から内服中。10年前に胃がんで胃の手術。2年前に転んで右手首を骨折、ギプスで治った。ペニシリン系の抗菌薬で発疹が出たことがある。お薬手帳あり。母が脳梗塞。
これを欄ごとに分けると、次のようになります。
現病歴
20XX年〇月〇日(入院3日前)より咳嗽、喀痰が出現。〇月〇日(入院前日)より38℃台の発熱、食欲低下あり。同日、近医内科を受診し内服薬を処方されたが、症状の改善なし。〇月〇日、近医からの紹介状を持参し当院外来を受診。肺炎の診断にて同日入院となる。
発熱後は食事摂取量が普段の半分程度(本人・長女より)。
既往歴
- 高血圧症(20XX年〜):近医内科通院中、内服治療中
- 胃がん(20XX年、70代):〇〇病院にて胃切除術。現在は定期受診終了(本人より)
- 右手首骨折(20XX年):ギプス固定にて治癒(本人より)
アレルギー
薬剤:ペニシリン系抗菌薬(発疹。時期は本人記憶なし)
食物:なし
内服薬
お薬手帳参照。持参薬は別紙の持参薬確認表に記載。入院前日に近医で処方された薬あり(内容は持参薬確認表に記載)
家族歴
母:脳梗塞
書き分けのポイントは3つです。
- 「近医で薬をもらった」は今回の経過なので、現病歴に入れる。内服薬欄にも、入院前日に始まった薬として残す
- 胃の手術は今回の肺炎とは別の過去の病気なので、既往歴に年と施設を書く
- ペニシリンの発疹は既往歴ではなく、アレルギー欄に出た症状と一緒に書く
情報の出どころ(本人より、長女より、紹介状より)を添えておくと、あとで内容が食い違ったときに確かめ直せます。
現病歴でやりがちな書き方と直し方
| やりがちな書き方 | 直し方 |
|---|---|
| 「数日前から咳あり」 | 「〇月〇日(入院3日前)より」と日付で書く。入院日から数えた日数を添えると読みやすい |
| 入院後の様子まで現病歴に書き続ける | 入院時点で締め、入院後は経過記録に書く |
| 既往歴の病気を現病歴に全部並べる | 今回の入院理由につながる経過だけを書き、それ以外は既往歴へ |
| 「〜と思われる」「〜のためか」と原因を推測する | 本人・家族が話したこと、医師の診断名など、確かめた事実だけを書く |
日本看護協会の指針は、看護記録の正確性を確保するための第一の留意点として「事実を正確に記載する」ことを挙げています。現病歴は推測を足したくなる欄ですが、診断や原因の判断は医師の記録に任せ、看護記録には聞き取った事実と時系列を残します。
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看護サマリーでも現病歴と既往歴の書き分けは同じ
転院や退院のときに書く看護サマリーでも、考え方は変わりません。違いは、入院中の経過が加わる点です。
- 現病歴(入院までの経過)は、入院時記録から要点を短くして書く
- 入院後の治療・看護の経過は、現病歴に足さず「入院中の経過」の欄に書く
- 既往歴は、受け取る施設のケアに関わるもの(治療中の持病、手術歴)を優先して残す
看護サマリーで書く項目全体は「看護サマリーとは?書く項目と、読む人に伝わる書き方のコツ」にまとめています。
よくある質問
既往歴と既往症は同じ意味ですか
ほぼ同じ意味で使われます。使い分ける場合は、既往症が「過去にかかった病気そのもの」、既往歴が「その病気の履歴」を指します。看護記録の欄名は「既往歴」が一般的です。書く内容(病名・時期・治療・現在の状態)は変わらないので、施設の様式にある欄名に合わせれば問題ありません。
患者さんが過去の病気をよく覚えていないときは、どう書けばいいですか
覚えている範囲を、そのまま書きます。「時期不明」「詳細は本人記憶なし」と書いておけば、空欄よりも、聞き取ったうえで分からなかったことが伝わります。お薬手帳や紹介状、家族への確認で分かったことは、情報の出どころを添えて追記します。
子どもの頃の病気や、治った軽い病気も既往歴に書きますか
施設の記載基準に従うのが前提です。一般的には、入院・手術をしたもの、治療中のもの、今回の入院中の治療やケアに関わりそうなものを優先して書きます。何を書くかで迷ったときは、先輩の記録や施設の記載基準を確認してください。
まとめ
- 現病歴は今回の入院理由につながる経過、既往歴はそれ以外のこれまでの病気・手術
- 治療中の持病は既往歴に書き、「いつから」「いまどうしているか」を添える
- 今回の入院に関係する過去の病気は、現病歴の起点にする
- アレルギーと内服薬は既往歴に混ぜず、それぞれの欄に書く
- 欄の分け方は施設の様式が優先。現病歴は入院時点で締め、事実だけを書く
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参考
- 日本看護協会「看護記録に関する指針」(2018年) https://www.nurse.or.jp/nursing/home/publication/pdf/guideline/nursing_record.pdf