ナースの勉強部屋

看護師のヒヤリハット報告書の書き方|項目・5W1Hの手順と、そのまま直せる例文

看護師のヒヤリハット報告書の書き方|項目・5W1Hの手順と、そのまま直せる例文

ヒヤリハット報告書を前にすると、手が止まる人は少なくありません。「自分のミスを書く書類」だと感じるからです。

ただ、報告書は反省文ではありません。同じことを別の人が起こさないための材料です。この記事では、報告書の項目、事実の書き方、要因の書き方を順に整理し、書き直しの例文を並べます。

扱うのは書き方だけです。起きたことへの医学的な対応や判断は、必ず医師・上司・医療安全管理者の指示に従ってください。

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目次
  1. ヒヤリハットとは何を指すか
  2. 報告書を書く理由は「個人を責めるため」ではない
  3. 報告書の主な項目
  4. 事例の内容は5W1Hで、事実だけを書く
    1. 手順1 時系列でメモを作る
    2. 手順2 5W1Hに当てはめる
    3. 手順3 主観の言葉を抜く
  5. 例文:書き直し前と後
    1. 例1 与薬の時間を間違えそうになった
    2. 例2 移動介助の準備で転倒につながりかけた
  6. 発生要因は「行動」と「背景」に分けて書く
  7. 改善策は「誰が見ても実行できる」形で書く
  8. よくある質問
  9. まとめ
  10. 参考

ヒヤリハットとは何を指すか

厚生労働省の「リスクマネージメントマニュアル作成指針」(国立病院等向け、平成12年)は、ヒヤリ・ハット事例を次のように定義しています。

患者に被害を及ぼすことはなかったが、日常診療の現場で、”ヒヤリ”としたり、”ハッ”とした経験を有する事例。

日本医療機能評価機構が全国の医療機関から事例を集める際の報告項目では、さらに2つに分けています。

  • 患者に実施されなかったが、仮に実施されていたら何らかの影響があったもの
  • 患者に実施されたが、結果として治療を要しなかった、または軽微な治療で済んだもの

「結局なにも起きなかったから書かなくていい」とはなりません。実施される前に気づいたものも、報告の対象です。

報告書を書く理由は「個人を責めるため」ではない

医療法施行規則第1条の11は、病院等の管理者に医療安全の体制づくりを求めています。そのなかの1つが、院内で起きた出来事を報告させ、安全のための改善につなげる方策を講じることです。報告書は、この仕組みの入り口です。

前述の指針も、報告を提出した人に対して「当該報告を提出したことを理由に不利益処分を行ってはならない」と定めています。同じ指針では、体験した職員が翌日までに報告する流れが示されています。

実際の様式や締め切りは施設ごとに違います。自分の施設の医療安全マニュアルが正です。ここでは、どの様式でも共通して求められる中身を扱います。

報告書の主な項目

日本医療機能評価機構の「ヒヤリ・ハット事例情報」報告入力項目を整理すると、次のようになります。施設の様式も、おおむねこの項目に沿っています。

項目 書く内容 書くときの注意
発生日時・曜日・時間帯 いつ起きたか、いつ気づいたか 「朝」ではなく時刻で書く
発生場所 病室、処置室、廊下など 場所が要因に関わることがある
医療の実施の有無 患者に実施されたか、されなかったか 最初に確定させる
影響度 仮に実施されていたらどうなったか 自分で決めず、様式の選択肢で選ぶ
概要 薬剤、輸血、治療・処置、ドレーン・チューブ、療養上の世話など8分類 一番近いものを1つ
当事者・発見者 職種、経験年数、部署の配属期間 氏名ではなく属性で書く施設が多い
事例の内容 何が起きたか 事実だけを時系列で書く
発生要因 なぜ起きたか 当事者の行動と、背景・仕組みを分ける
改善策 次にどうするか 「気をつける」で終わらせない

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事例の内容は5W1Hで、事実だけを書く

一番書き直しを求められるのが「事例の内容」です。ここは事実と、その時の判断・気持ちを分けて書くのが基本です。

手順1 時系列でメモを作る

いきなり文章にせず、時刻と出来事を1行ずつ並べます。

  • 何時何分に、何をしようとしたか
  • 何時何分に、何に気づいたか
  • 誰が気づいたか(自分、同僚、患者本人、家族)
  • 気づいた後に、誰に報告し、何をしたか

手順2 5W1Hに当てはめる

要素 書く内容
いつ 発生時刻と発見時刻
どこで 病室、ナースステーション、廊下など
誰が 当事者の職種と経験年数、発見者
何を 対象の業務(与薬、移動介助、配膳など)
どのように 本来の手順と、実際に起きたことの差
その後 誰に報告し、どう対応したか

手順3 主観の言葉を抜く

「うっかり」「つい」「焦って」「大丈夫だと思った」は、事例の内容からは外します。気持ちや判断は、発生要因の欄で扱うほうが分析に使えます。

例文:書き直し前と後

例1 与薬の時間を間違えそうになった

書き直し前

忙しくてうっかり昼の薬を朝に配りそうになってしまいました。本当に申し訳ありません。今後は気をつけます。

書き直し後

8時40分、Aさん(入院、担当患者5名のうちの1名)の朝の与薬準備中に、昼食後に予定されていた内服薬を朝の配薬トレーに入れた。8時45分、配薬前の確認で指示書と見比べた際に、時間の違いに気づき、昼の分を戻した。患者への与薬は行っていない。8時50分、リーダー看護師に報告した。

書き直し後には、謝罪の言葉がありません。そのかわり、いつ・どこで気づき・誰に伝えたかが入っています。これで、読んだ人が「配薬前の確認で止まった」ことを確認できます。

例2 移動介助の準備で転倒につながりかけた

書き直し前

車椅子に移るときにブレーキをかけ忘れていて、危なかったです。

書き直し後

14時10分、病室でBさんのベッドから車椅子への移乗を介助しようとした。車椅子のブレーキがかかっていない状態で、Bさんが立ち上がりかけた。Bさんの体を支えたまま移乗を中断し、ブレーキをかけてから移乗した。Bさんに転倒や打撲はなかった。14時20分、リーダー看護師に報告した。

患者の氏名は、施設の様式で求められた範囲だけにします。報告書の外に持ち出すメモには書きません。

発生要因は「行動」と「背景」に分けて書く

報告入力項目では、発生要因を大きく2つに分けています。

  • 当事者の行動に関わる要因。確認を怠った、観察を怠った、報告が遅れた、記録などに不備があった、連携ができていなかった、患者への説明が不十分だった、判断を誤った
  • 背景・システム・環境の要因。知識不足、技術・手技の未熟さ、勤務の繁忙、通常と異なる身体的・心理的条件、コンピュータシステム、医薬品、医療機器、施設・設備、教育・訓練、仕組み、ルールの不備

新人のうちは、行動の要因だけを書きがちです。「確認を怠った」だけだと、改善策は「確認を徹底する」しか出てきません。

そこで、なぜ確認が抜けたかを背景から1つ足します。

  • 配薬トレーの朝・昼の区別が色だけで、似ていた(物・設備)
  • 指示の変更がその日の朝に入っていた(仕組み)
  • 担当患者の受け持ちが急に1名増えていた(勤務状況)

要因をもう一段深く見たい場合は、SHELLモデル(ソフトウェア=手順やマニュアル、ハードウェア=物や設備、環境、周囲の人、当事者本人の5つに分けて考える枠組み)で整理する施設もあります。どの枠組みを使うかは、施設の医療安全委員会の方針に合わせてください。

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改善策は「誰が見ても実行できる」形で書く

「気をつける」「確認を徹底する」は、改善策としては弱い書き方です。次に同じ場面になったとき、何をするかが書かれていないからです。

弱い改善策 実行できる改善策
確認を徹底する 配薬前に、指示書と薬袋の時間欄を指さしで見比べる
注意する 移乗の前に、ブレーキを声に出して確認する
気をつけて観察する 指示変更があった患者は、申し送り時に口頭で共有する

改善策には、自分1人でできることと、病棟全体で検討してほしいことを分けて書きます。後者は、医療安全の担当者やリーダーが拾いやすくなります。

報告後に気持ちが落ち込んでしまう場合は、インシデントが怖い・辞めたいと感じたときの立ち直り方も参考にしてください。出来事を学びに変える書き方は、看護のリフレクションの書き方で詳しく扱っています。

よくある質問

Q. 自分が起こしたのではなく、気づいただけのときも書くのですか。

書きます。報告入力項目にも「発見者」の欄があり、当事者本人以外が発見した事例も集めています。発見した人の報告があるから、気づけた仕組みを共有できます。

Q. ヒヤリハットとインシデントは何が違うのですか。

呼び方は施設によって違います。ヒヤリハットをインシデントと同じ意味で使う施設もあれば、影響の程度でレベルを分けて呼び分ける施設もあります。自分の施設の医療安全マニュアルの定義に合わせてください。

Q. 報告書を出すと評価が下がりませんか。

前述の指針は、報告したことを理由に不利益な扱いをしてはならないとしています。報告の件数が多い病棟ほど、気づく力が働いているとみなす考え方もあります。

Q. 書き終わったら誰に見せればいいですか。

施設の流れに従います。多くはリーダーや所属長が内容を確認し、医療安全の担当部門へ上がります。提出前に、事実と主観が一緒になっていないかを先輩に見てもらうと安心です。

まとめ

  • ヒヤリハットは、患者に被害が出なかった事例。実施前に気づいたものも報告の対象
  • 報告書は反省文ではなく、同じことを防ぐための材料
  • 事例の内容は5W1Hで、事実だけを時系列で書く
  • 気持ちや判断は発生要因の欄で扱う
  • 要因は「行動」と「背景・仕組み」に分けて、背景を1つは書く
  • 改善策は、次に同じ場面で何をするかが分かる形にする

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参考

  • 厚生労働省「リスクマネージメントマニュアル作成指針」(平成12年) https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/sisin/tp1102-1_12.html
  • 日本医療機能評価機構「ヒヤリ・ハット事例情報」報告入力項目 https://www.med-safe.jp/pdf/hiyarihatto_input_item.pdf
  • 医療法施行規則(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050