ナースの勉強部屋

【看護倫理】パターナリズム(父権主義)とは?インフォームド・コンセント、SDMとの違い

【看護倫理】パターナリズム(父権主義)とは?インフォームド・コンセント、SDMとの違い

看護倫理や医療の歴史を学ぶうえで、必ず登場するキーワードが「パターナリズム(父権主義)」です。

現代の医療は「患者中心」が当たり前となっていますが、かつてはパターナリズムに基づく医療が主流でした。

本記事では、パターナリズムの正しい意味や歴史的背景、インフォームド・コンセントや近年注目される「SDM(協働意思決定)」との違い、そして看護現場で陥りやすい具体的なジレンマ(事例)についてわかりやすく解説します。

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目次
  1. パターナリズム(父権的保護主義)の意味とは?
    1. 医療倫理における「善行の原則」と「自律尊重の原則」の衝突
    2. 「強いパターナリズム」と「弱いパターナリズム」
  2. パターナリズムとインフォームド・コンセントの違い、SDMへの流れ
    1. SDM(協働意思決定)の実践において看護師が果たす役割
      1. 価値観の明確化
      2. 情報の補完と解釈支援
      3. チームへの情報共有
  3. パターナリズムの問題点と医療現場での歴史
    1. パターナリズムの歴史的背景
    2. 自己決定の尊重へのパラダイムシフト
  4. 【ケーススタディ】看護現場で陥りやすいパターナリズムの具体例
    1. 事例1:がんの告知や予後を「伏せる」
    2. 事例2:「患者のため」の無理な食事やリハビリの強要
    3. 事例3:安全を最優先にした「身体拘束」
  5. 患者の意思を尊重しながら最善のケアを提供する視点
    1. 自分の価値観を押し付けていないか自問自答する
    2. 患者の代弁者(アドボケイト)となる
    3. 多職種チームでカンファレンスを行う
  6. 温かな思いやりを「押し付け」にしないために

パターナリズム(父権的保護主義)の意味とは?

パターナリズム(Paternalism)とは、ラテン語の「Pater(父)」を語源とする言葉で、日本語では「父権主義」「父権的温情主義」「親権的保護主義」などと訳されます。

医療におけるパターナリズムとは、「医療者(親)が、患者(子ども)の利益になると信じて、患者の意思決定に介入し、医療者側が方針を決定してしまうこと」を指します。

「専門家である医師や看護師が、医学的に正しい判断を下すのだから、患者はそれに従うべきだ」という、医療者優位の考え方が根底にあります。

医療倫理における「善行の原則」と「自律尊重の原則」の衝突

パターナリズムの本質は、生命倫理の基本原則である「善行の原則(患者の利益になることを行う)」と「自律尊重の原則(患者自身の意思決定を尊重する)」の衝突にあります。

医療者が「患者を助けたい」「不利益を避けたい」と善意で行動した結果(善行)、患者本人の選択肢や意思決定権が阻害されてしまう(自律尊重の軽視)という構造的な課題が含まれています。

「強いパターナリズム」と「弱いパターナリズム」

医療倫理学において、パターナリズムは大きく2つに分類されます。看護師として、この違いを理解しておくことが重要です。

種類状態・意味医療現場での考え方
強いパターナリズム患者に判断能力があるにもかかわらず、医療者が「患者のため」と強引に意思を退けること。現代の医療倫理では原則として否定されます。(例:本人が拒否しているのに強制的に手術を行うなど)
弱いパターナリズム意識不明、重度の認知症、幼い子どもなど、患者に自己決定能力がない場合に、医療者が最善の利益を代行して決定すること。患者を保護するために正当なものとして容認されます。(例:意識不明で運ばれた救急患者に、直ちに救命処置を行うなど)

パターナリズムとインフォームド・コンセントの違い、SDMへの流れ

パターナリズムと対極にあるのが、現代医療の基本であるインフォームド・コンセント(十分な説明と同意)です。さらに近年では、そこから一歩進んだSDM(Shared Decision Making:協働意思決定)という概念が重要視されています。

これら3つの違いは、「誰が意思決定の主体になるか」に注目すると分かりやすくなります。

概念意思決定の主体特徴と医療現場での状態
パターナリズム医療者「お任せ医療」。
医師が最善の治療法を決め、患者はそれに従う。
インフォームド・コンセント
(IC)
患者医療者が選択肢とリスクを説明し、患者が同意・選択する。

しかし、「説明したのだから自分で決めてください」と患者の孤立(自己決定の丸投げ)に陥るリスクがある。
SDM
(協働意思決定)
医療者と患者(両方)医療者は「医学的な根拠」を、
患者は「大切にしたい価値観や生活」を共有(シェア)し、
双方が納得するゴールを一緒に話し合って決める。

看護師は、患者様がインフォームド・コンセントの段階で「どうすればいいか分からない」と迷っているとき、患者様の価値観や生活背景を引き出し、医師とのSDM(協働意思決定)がスムーズに行われるよう仲介・サポートする役割を担っています。

SDM(協働意思決定)の実践において看護師が果たす役割

SDMを単なる理論に終わらせず現場で実践するために、看護師には以下の役割が期待されます。

価値観の明確化

患者様が治療選択において「何(仕事、家族、痛みの回避、生活の質など)を最優先したいか」を対話の中で引き出す。

情報の補完と解釈支援

医師の説明内容を患者様が正しく理解できているか確認し、わかりやすい言葉で補足説明を行う。

チームへの情報共有

汲み取った患者様の生の声や不安を、医師をはじめとする多職種チームに共有し、協議の場をセットする。

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パターナリズムの問題点と医療現場での歴史

かつて主流だったパターナリズムがなぜ否定され、患者中心の医療(自己決定の尊重)へと移り変わったのか?について、以下で詳しく解説します。

パターナリズムの歴史的背景

古代ギリシャのヒポクラテスの時代から、医療は「医師が患者に善行を施すもの(善行の原則)」とされてきました。

「医学知識のない患者に複雑な説明をしても不安にさせるだけだから、専門家が最善を決めるべきだ」という温情から、長らくパターナリズムが肯定されていました。

自己決定の尊重へのパラダイムシフト

しかし、1960年代以降、アメリカの公民権運動などを契機に「個人の権利(人権)」を重視する動きが強まりました。医療においても「自分の体になされることは、自分で決める権利がある」という声が高まります。

その結果、1981年に世界医師会で採択された「リスボン宣言(患者の権利宣言)」によって、患者の「自己決定権」が国際的に確立されました。これにより、「医療者の善意」よりも「患者の自己決定」を優先する脱パターナリズムの時代へと大きく転換したのです。この流れが、のちのSDMにもつながっていきました。

【ケーススタディ】看護現場で陥りやすいパターナリズムの具体例

現代においても、医療者の「良かれと思って(温情)」の行動が、無意識のうちにパターナリズム(価値観の押し付け)になってしまうケースが多々あります。現場のジレンマ事例を見てみましょう。

事例1:がんの告知や予後を「伏せる」

「本当のことを伝えるとショックを受けて治療意欲をなくすから」と、医師や家族が患者本人に真実の病名や余命を隠し、看護師もそれに口裏を合わせるーーこれは、患者の「知る権利」と「残された時間をどう生きるか決める権利」を奪う行為です。

1980年代後半までの日本の医療現場では、「がん=不治の病」というイメージが強く、患者を絶望させないための温情(パターナリズム)として真実を隠すことが一般的でした。

現在では明確に否定されており、看護基礎教育(教科書)において「パターナリズムからインフォームド・コンセントへの歴史的転換」を学ぶ際の有名なケーススタディとして扱われます。

事例2:「患者のため」の無理な食事やリハビリの強要

吐き気で食事が喉を通らない患者に対し、看護師が「食べないと体力が落ちて治らないですよ!頑張って一口でも食べてください」と強く指導し、無理に食べさせるーーこのケースでは、看護師の「回復してほしい(善行)」という思いが先行し、患者の「今はつらくて食べたくない(自己決定・安楽)」という意思を軽視するパターナリズムに陥っています。

日本看護協会の『看護者の倫理綱領』第4条が示す「自己決定の権利の尊重」から外れ、医療者側の価値観を無意識に押し付けてしまう「小さなパターナリズム」の典型例です。

命に直結しない日常ケアの中にこそパターナリズムは潜んでおり、臨床現場の倫理カンファレンスでも頻出する事例です。 参照:日本看護協会『看護者の倫理綱領』

事例3:安全を最優先にした「身体拘束」

転倒リスクのある認知症患者がベッドから起きてしまうため、スタッフの判断で「骨折したら大変だから」とミトンを着せたり、ベッドに柵をしたりして行動を制限するーーこのケースは、「安全・保護」を理由に患者の「自由と尊厳」を奪う行為であり、本人の同意なき安易な身体拘束は強いパターナリズムの表れです。

厚生労働省の『身体拘束ゼロへの手引き』において、医療者側の「安全確保」を目的とした安易な拘束は強く戒められています。

「安全(保護)か、尊厳(自由)か」という、現代の医療・介護現場で最も直面しやすいパターナリズムのジレンマとして位置づけられています。 参照:厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」

患者の意思を尊重しながら最善のケアを提供する視点

看護師は、患者の意思を尊重する「自律尊重の原則」と、患者に利益をもたらしたい「善行の原則」の板挟み(ジレンマ)になりやすい職種です。

パターナリズムに陥らず、最善のケアを提供するためには以下の視点が不可欠です。

自分の価値観を押し付けていないか自問自答する

「こうするべきだ」「これがこの人のためだ」と思ったとき、「それは私の価値観ではないか?」「患者様本人は本当にそれを望んでいるか?」と立ち止まって考える倫理的感受性が重要です。

患者の代弁者(アドボケイト)となる

日本看護協会の『看護者の倫理綱領』第4条には、「看護者は、人々の知る権利及び自己決定の権利を尊重し、その権利を擁護する」と定められています。

医師がパターナリズム的な方針を示した際、患者が納得していない様子であれば、看護師が間に入って患者の意思を代弁し、権利を守る(アドボカシー)役割が求められます。

多職種チームでカンファレンスを行う

「患者の自己決定をどこまで尊重すべきか(拒否をそのまま受け入れて放置してよいのか)」は、非常に難しい問題です。一人で抱え込まず、医師、ソーシャルワーカー、ご家族を交えてチームで話し合い、患者にとっての「本当の最善」を模索し続ける姿勢が大切です。

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温かな思いやりを「押し付け」にしないために

パターナリズム(父権主義)とは、医療者が患者のためを思って意思決定を代行してしまう考え方です。

だからこそ、「私の価値観の押し付けになっていないかな?」「患者さんはどうしたいんだろう?」と立ち止まる視点が大切です。

これからの医療の主役は患者さんご自身。もし現場でジレンマに迷ったときは、決して一人で抱え込まず、チームみんなで話し合いながら、患者さんと一緒に「本当の最善」を探していきましょう。