看護研究テーマの決め方|臨床看護師のための5ステップと型別テーマ一覧
「今年は看護研究の担当です」と言われて、まず困るのがテーマ決めです。「研究になるような大きなテーマが思いつかない」「先行研究を調べたら、同じような研究がすでにあった」と、最初の一歩で止まってしまう看護師は少なくありません。
この記事では、臨床で働く看護師が院内看護研究のテーマを決めるための5つのステップと、テーマの型ごとのテーマ例の一覧を紹介します。決まらないときに見直すチェックリストもあわせて整理します。
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看護研究のテーマ決めでつまずく理由
テーマ決めで迷う理由は、主に次の3つです。
- 「研究らしいテーマ」を探してしまう——身近な疑問を小さすぎると感じて、候補から外してしまう
- テーマが大きすぎる——「患者満足度を上げる」のように、1年間では扱いきれない範囲を設定してしまう
- 実現できるかを後回しにする——データが集まらない、協力者がいないことに途中で気づく
院内看護研究のテーマは、立派さよりも「自分たちの現場の疑問に、決められた期間で答えを出せるか」が大切です。
看護研究テーマの決め方|5つのステップ
| ステップ | やること | 目安の時期(1年計画の場合) |
|---|---|---|
| 1. 疑問の書き出し | 日々の業務で「なぜ」「困った」と感じたことを集める | 4〜5月 |
| 2. 問いをしぼる | 疑問を「誰の・何を・どう明らかにするか」の1文にする | 5月 |
| 3. 文献検索 | 同じテーマの先行研究を調べ、分かっていることを整理する | 5〜6月 |
| 4. 実現可能性の確認 | 期間・対象・データ・協力者で実施できるか確かめる | 6月 |
| 5. 倫理面の確認と計画書 | 倫理的配慮を検討し、施設の手順に沿って計画書を作る | 6〜7月 |
時期は施設の研究スケジュールによって変わります。発表日から逆算して、テーマ決めに使える期間を先に確認しておきましょう。
ステップ1:現場の疑問を書き出す
最初は、質を気にせず数を出します。1週間ほど、業務中に感じたことをメモしておくと集めやすくなります。
- 「なぜこの手順は、人によってやり方が違うのだろう」
- 「新人が同じところでつまずくのはなぜだろう」
- 「退院前の説明のあと、家族から同じ質問が多いのはなぜだろう」
- 「この記録、本当に全部必要なのだろうか」
「困っている」「時間がかかる」「人によって違う」の3つは、テーマの種になりやすい言葉です。
ステップ2:問いを1文にしぼる
集めた疑問から1つを選び、「誰の」「何を」「どう明らかにするか」を入れた1文にします。
| しぼる前 | しぼった後 |
|---|---|
| 申し送りを良くしたい | 当病棟の日勤看護師を対象に、申し送りにかかる時間と内容の実態を明らかにする |
| 新人教育を改善したい | 当部署の新人看護師が、入職後3か月で困難と感じた場面を明らかにする |
| 家族への説明を分かりやすくしたい | 退院前説明を受けた家族が、退院後に疑問に感じた点を明らかにする |
「実態を明らかにする」「思いを明らかにする」「前後で比べる」など、何を知りたいのかが決まると、研究方法も選びやすくなります。
ステップ3:文献検索で先行研究を調べる
テーマ候補が決まったら、同じようなテーマの研究がどこまで行われているかを調べます。日本語の看護文献は、医中誌Web、CiNii Research、J-STAGEなどのデータベースで探せます。施設の図書室や、所属する学会・看護協会の文献サービスが使える場合もあります。
文献検索で確認するのは次の3点です。
- すでに分かっていること——同じ結論が繰り返し出ているなら、別の切り口を探す
- まだ分かっていないこと——論文の「今後の課題」「研究の限界」はテーマのヒントになる
- 使われている研究方法——アンケートの項目やインタビューの進め方を参考にできる
同じテーマの先行研究があっても、対象や場面が違えば、自分たちの研究にする意味があります。「病棟が違う」「経験年数が違う」など、何が違うのかを言葉にしておきましょう。
ステップ4:実現可能性を確認する
テーマが決まりかけたら、実施できるかを具体的に確かめます。
| 確認すること | 問いかけ |
|---|---|
| 期間 | データ収集から分析、発表まで期限内に終わるか |
| 対象 | 必要な人数や件数を、期間内に集められるか |
| データ | 使いたい記録や情報を、施設のルールの範囲で入手できるか |
| 協力者 | 同僚や他職種に、業務の負担をかけすぎないか |
| 研究者の力 | 分析の方法を、自分たちや指導者が扱えるか |
| 費用・物品 | 印刷や物品などの費用が必要な場合、確保できるか |
1つでも「難しい」がある場合は、対象を1つの部署にしぼる、期間を短くする、調べる項目を減らすなど、テーマを小さく調整します。
ステップ5:倫理面を確認し、計画書を作る
人を対象とする研究では、研究対象者の人権や個人情報を守るための倫理的配慮が欠かせません。国の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」や、日本看護協会の「看護研究における倫理指針」などが、考え方のよりどころになります。
院内看護研究で倫理審査が必要かどうか、どの委員会に申請するかは、施設によって手順が異なります。自分たちの判断で「業務改善だから審査はいらない」と決めず、テーマが決まった段階で、看護部の研究担当者や施設の倫理審査の窓口に確認しましょう。学会や院外での発表を予定している場合は、発表先が倫理審査の承認を求めていることもあります。
計画書の作成前に、次の点を整理しておくとスムーズです。
- 研究の目的と、明らかにしたいこと
- 対象者と、協力をお願いする方法
- 対象者への説明と同意の取り方
- 個人情報の扱いと、データの保管方法
- 協力しなくても不利益がないことをどう伝えるか
看護研究テーマ一覧|型別のテーマ例
ここでは、臨床看護師が取り組みやすいテーマ例を7つの型に分けて紹介します。医療行為そのものの効果を検証するテーマではなく、業務・教育・連携・患者や家族の体験を扱うものを中心にしています。そのまま使うのではなく、自分の部署に合わせて対象や場面を置きかえてください。
1. 業務改善
| テーマ例 | 方法の例 |
|---|---|
| 日勤の申し送りにかかる時間と内容の実態 | 時間計測、内容の分類 |
| 看護記録の記載にかかる時間と負担感 | タイムスタディ、アンケート |
| 物品補充の手順統一による補充漏れ件数の変化 | 導入前後の件数比較 |
| ナースコール対応の件数と時間帯の実態 | 記録の集計 |
| 定時退勤を妨げている業務の要因 | アンケート、自由記述の分析 |
| 業務マニュアルの活用状況と使われない理由 | アンケート |
| 勤務交代時の情報共有ツール導入に対する看護師の評価 | 導入前後のアンケート |
2. 看護師の教育・キャリア
| テーマ例 | 方法の例 |
|---|---|
| 新人看護師が入職後3か月で困難と感じた場面 | インタビュー |
| プリセプターが指導で悩んだ経験と支援ニーズ | インタビュー |
| 院内研修の受講後、実践で活用できた内容 | アンケート |
| 中堅看護師のキャリアに対する考えと支援ニーズ | アンケート、インタビュー |
| 異動した看護師が新しい部署に慣れるまでに役立ったこと | インタビュー |
| 部署内勉強会の開催方法と参加しやすさの関係 | アンケート |
| 夜勤の独り立ちに向けて新人が不安に感じる場面 | アンケート |
3. 患者・家族の体験や満足
| テーマ例 | 方法の例 |
|---|---|
| 入院時オリエンテーションで患者が分かりにくいと感じた点 | アンケート |
| 退院前説明を受けた家族が退院後に疑問に感じた点 | アンケート、インタビュー |
| 面会の制限や方法に対する家族の思い | インタビュー |
| 外来の待ち時間に対する患者の受け止め | アンケート |
| 入院生活で患者が気がかりに感じていること | アンケート |
| 説明用パンフレットの読みやすさに対する患者の評価 | アンケート |
4. 多職種連携
| テーマ例 | 方法の例 |
|---|---|
| 退院支援カンファレンスで看護師が発言しにくい要因 | アンケート |
| 看護師と薬剤師の情報共有の方法と課題 | インタビュー |
| 看護師とリハビリ職の連携に対する双方の認識 | アンケート |
| 看護補助者への業務依頼で困っていること | アンケート、インタビュー |
| 地域の訪問看護ステーションとの情報共有に対する看護師の認識 | アンケート |
| 医療ソーシャルワーカーへ相談するタイミングの実態 | 記録の集計 |
5. 働き方・職場環境
| テーマ例 | 方法の例 |
|---|---|
| 夜勤中の休憩の取りやすさと影響する要因 | アンケート |
| 子育て中の看護師が働き続けるために必要と感じる支援 | インタビュー |
| 時間外の研修参加に対する看護師の負担感 | アンケート |
| 部署内のコミュニケーションと働きやすさの認識 | アンケート |
| 休暇の取りやすさに関する看護師の認識 | アンケート |
6. 安全・感染対策の取り組み
| テーマ例 | 方法の例 |
|---|---|
| インシデント報告をためらう理由 | アンケート |
| 手指衛生の実施状況と、実施しにくい場面 | 観察、アンケート |
| 部署内での安全に関する学習会後の意識の変化 | 前後のアンケート |
| ダブルチェックの方法が人によって異なる理由 | インタビュー |
7. 看護記録・情報管理
| テーマ例 | 方法の例 |
|---|---|
| 看護計画の見直しが遅れる要因 | 記録の調査、アンケート |
| 電子カルテのテンプレート利用に対する看護師の評価 | アンケート |
| 記録の重複記載の実態 | 記録の調査 |
| 患者情報を探すのに時間がかかる場面 | タイムスタディ、アンケート |
記録の調査や観察、患者・家族を対象にしたアンケートなどは、個人情報や対象者の負担への配慮が特に必要です。前のステップで紹介したとおり、実施前に施設の手順を確認してください。
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テーマが決まらないときのチェックリスト
- □ 業務中の「なぜ」「困った」を10個以上書き出した
- □ テーマを「誰の・何を・どう明らかにするか」の1文にした
- □ 対象を自分の部署や特定の場面にしぼった
- □ 先行研究を検索し、分かっていることと分かっていないことを分けた
- □ 期限内にデータ収集と分析が終わる見通しがある
- □ 必要な人数・件数を集められる
- □ 同僚や他職種の負担が大きすぎない
- □ 倫理審査の要否と手順を看護部や窓口に確認した
- □ 指導者や先輩に一度テーマを話して意見をもらった
チェックが付かない項目があれば、そこがテーマを調整するポイントです。多くの場合は、対象か期間を小さくすることで前に進めます。
よくある質問
Q. 先行研究と同じテーマになってしまったら、やめるべきですか?
やめる必要はありません。対象の部署、経験年数、場面などが違えば、自分たちの現場で確かめる意味があります。先行研究の「今後の課題」に書かれていることを取り入れると、違いを出しやすくなります。
Q. アンケートとインタビュー、どちらを選べばいいですか?
「どのくらい」「どれが多いか」を知りたいならアンケート、「なぜ」「どのような思いか」を知りたいならインタビューが向いています。ステップ2で決めた問いに合わせて選びましょう。迷ったときは、先行研究でどの方法が使われているかを参考にしてください。
Q. 業務改善の取り組みを看護研究として発表してもいいですか?
発表の形は施設や発表先によって異なります。業務改善の報告として扱うのか、研究として倫理審査を経るのかは、施設の規程や倫理審査の窓口の判断に沿って決めます。取り組みを始める前に確認しておくと、あとで発表できないという事態を防げます。
まとめ
看護研究のテーマは、疑問の書き出し→問いをしぼる→文献検索→実現可能性の確認→倫理面の確認と計画書の5ステップで決めると、途中で行き詰まりにくくなります。テーマの立派さよりも、自分たちの現場の疑問に、期限内で答えを出せるかどうかが大切です。
まずは今日から1週間、業務中に感じた「なぜ」「困った」をメモすることから始めてみてください。その中に、あなたの部署ならではのテーマが見つかるはずです。
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参考
- 厚生労働省「研究に関する指針について」(人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html