最低賃金は正社員の基本給にも効く|看護師が自分の給与で確かめる計算手順
「最低賃金はアルバイトの話」と思っている人は多いのですが、最低賃金法は正社員にも適用されます。月給制でも例外ではありません。
そして看護師の場合、夜勤手当が最低賃金の判定に入らないという点が効いてきます。手取りは多いのに、判定の土台になる金額は思ったより低い——という構造が起きうる職種です。
ここでは、自分の給与明細で確かめる手順を、計算例つきで整理します。
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前提:いまの最低賃金
厚生労働省の令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧によると、全国加重平均は時間額1,121円(改定前1,055円、引上げ額66円、引上げ率6.3%)。
都道府県別では次のようになっています。
| 区分 | 都道府県 | 時間額 |
|---|---|---|
| 最も高い | 東京 | 1,226円 |
| 神奈川 | 1,225円 | |
| 大阪 | 1,177円 | |
| 埼玉 | 1,141円 | |
| 千葉・愛知 | 1,140円 | |
| 最も低い | 高知・宮崎・沖縄 | 1,023円 |
東京と高知・宮崎・沖縄の差は203円。1日8時間・月20日で換算すると、月あたり約32,000円の差になります。
⚠️ 発効日は都道府県ごとに違います。令和7年度は令和7年10月1日から令和8年3月31日までの間にばらけて発効しました(例:東京は令和7年10月3日、秋田は令和8年3月31日)。改定は毎年行われるので、自分の県の最新額と発効日は上記の厚生労働省ページで確認してください。
最低賃金は正社員にも適用される
最低賃金法は、雇用形態を問わず、すべての労働者に適用されます。正社員・契約社員・パート・アルバイト・派遣、どれも対象です。
月給制の場合は、月給を時間額に換算して最低賃金と比べます。ここで多くの人がつまずくのが、「月給の全部が判定に入るわけではない」という点です。
🔴 判定に入らない賃金 — ここが看護師には効く
厚生労働省の最低賃金の対象となる賃金によると、実際に支払われる賃金から次の6つを除外した額が判定の対象になります。
| # | 除外されるもの | 看護師の給与でいうと |
|---|---|---|
| 1 | 臨時に支払われる賃金 | 結婚手当など |
| 2 | 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 | 賞与(ボーナス) |
| 3 | 所定労働時間を超える労働に対する賃金 | 残業代(時間外割増) |
| 4 | 所定労働日以外の労働に対する賃金 | 休日出勤の割増 |
| 5 | 22時〜5時の労働に対する賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分 | 🔴 深夜割増の部分 |
| 6 | 精皆勤手当・通勤手当・家族手当 | 通勤手当・扶養手当 |
5番が看護師にとって重要です。深夜割増(通常賃金を超える上乗せ部分)は判定に入りません。
⚠️ 「夜勤手当」の扱いは、その手当が何に対して支払われているかで決まります。深夜割増に相当する部分は除外されますが、施設独自の夜勤手当がすべて自動的に除外されるとは限りません。判断に迷う場合は、給与規程を確認するか、都道府県の労働局に問い合わせてください。
入るもの:基本給、住宅手当、役職手当、資格手当(毎月定額で支払われるもの)など。
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計算してみる — 手順は4つ
ステップ1:月給から、除外される手当を引く
給与明細を見て、上の表の1〜6に当たるものを引きます。
例)月給 240,000円の内訳
基本給 180,000円 ← 入る
住宅手当 25,000円 ← 入る
精皆勤手当 10,000円 ← 除外
家族手当 15,000円 ← 除外
通勤手当 10,000円 ← 除外
────────────────────────
判定に使う額 205,000円
(この内訳は神奈川労働局の計算例に沿ったものです)
ステップ2:1年間の所定労働時間を出す
「今月働いた時間」ではありません。就業規則で決まっている所定労働時間です。
例)1日8時間 × 年間所定労働日数240日 = 年1,920時間
年間所定労働日数は、就業規則か労働条件通知書に書かれています。分からなければ人事に聞いてください。
ステップ3:1か月平均の所定労働時間を出す
1,920時間 ÷ 12か月 = 月平均160時間
ステップ4:時間額に直して、最低賃金と比べる
205,000円 ÷ 160時間 = 1,281.25円 → 1,281円
東京(1,226円)なら → 上回っている ✅
もしこれが下回っていたら、最低賃金法違反です。
看護師で起きやすいパターン
夜勤が多い月ほど、手取りは増えます。しかし判定に使うのは深夜割増を除いた額なので、手取りが増えても判定の土台は動きません。
例)夜勤5回の月
基本給 175,000円 ← 判定に入る
夜勤手当(深夜割増相当) 60,000円 ← 判定から除外される部分を含む
残業代 20,000円 ← 除外
通勤手当 12,000円 ← 除外
─────────────────────────────
支給総額 267,000円
判定に使う額 175,000円 前後
175,000円 ÷ 160時間 = 約1,094円
→ 東京(1,226円)なら 下回る
→ 沖縄(1,023円)なら 上回る
支給総額が267,000円あっても、勤務地が東京なら最低賃金を割っているという計算になります。「総額が多いから大丈夫」は成り立ちません。
⚠️ 上は説明のための数値例です。必ず自分の給与明細と就業規則で計算してください。
基本給が低いと、他にも効いてくる
最低賃金の判定以外にも、基本給は複数のものの計算根拠になります。
| 影響するもの | どう効くか |
|---|---|
| 賞与 | 「基本給の◯か月分」で決まる施設が多い。基本給が低ければ賞与も低い |
| 退職金 | 基本給と勤続年数で決まる制度が一般的 |
| 時間外の割増単価 | 割増賃金の基礎になる賃金から、通勤手当・家族手当などは除外される。基本給が低いと残業代の単価も低くなる |
| 昇給 | 「昇給◯円」は基本給に対して行われる |
| 傷病手当金・出産手当金 | 標準報酬月額から算定される(こちらは手当も含む) |
つまり基本給が低く手当で盛られている給与は、目先の月収が同じでも、長期では差がつきます。
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求人票を見るときのチェック
転職先を比べるときは、総額ではなく内訳を見てください。
- 基本給がいくらか — 「月給28万円〜」の内訳に基本給が書かれているか
- 夜勤手当の単価と、想定回数 — 「月給32万円」が夜勤5回前提なら、4回で数万円下がる
- 賞与の算定根拠 — 「基本給の4か月分」なのか「年間◯万円」なのか
- 固定残業代の有無と時間数 — 含まれているなら、その時間分は働く前提の金額
- 通勤手当・住宅手当の額と上限
基本給が書かれていない求人票は、面接で必ず聞いてください。答えられない、はぐらかされる場合は、それ自体が判断材料になります。
最低賃金を下回っていたら
まず落ち着いて、計算をもう一度確認してください。所定労働時間の取り違えが一番多い原因です。
そのうえで下回っていると判断できるなら、都道府県労働局または労働基準監督署に相談できます。相談は無料で、匿名でも受け付けられます。
最低賃金額に満たない賃金を定めた労働契約は、その部分が無効となり、最低賃金額で契約したものとみなされます(最低賃金法第4条第2項)。つまり、差額を請求できます。
準備しておくもの:
– 給与明細(できれば数か月分)
– 労働条件通知書または雇用契約書
– 就業規則(所定労働時間と年間所定労働日数が分かる部分)
求人を見ながら基本給を比べる
実際の求人票で内訳を見比べると、基本給の水準感がつかめます。
勤務地・施設形態・職種で絞り込めます。同じエリア・同じ施設形態で3〜5件並べて、基本給の欄だけを見比べると、その地域の相場が見えてきます。
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よくある質問
Q. 月給制でも最低賃金は適用されますか?
されます。月給を時間額に換算して比べます。雇用形態や賃金の支払い方は関係ありません。
Q. 夜勤手当は判定に入りますか?
深夜割増(通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分)は除外されます。ただし施設独自の夜勤手当がすべて自動的に除外されるとは限らず、その手当が何に対して支払われているかで判断が変わります。給与規程を確認するか、労働局に問い合わせてください。
Q. 住宅手当は入りますか?
毎月定額で支払われる住宅手当は判定に入ります。除外されるのは精皆勤手当・通勤手当・家族手当です。
Q. 年間所定労働日数が分かりません。
就業規則か労働条件通知書に記載があります。無ければ人事に確認してください。年間休日数が分かれば、365日から引いて概算できます(年間休日120日なら245日)。
Q. 最低賃金はいつ変わりますか?
毎年改定されます。発効日は都道府県ごとに違い、令和7年度は令和7年10月から令和8年3月にかけてばらけて発効しました。自分の県の最新額は厚生労働省のページで確認してください。
まとめ
- 最低賃金は正社員にも適用される。月給を時間額に換算して判定する
- 全国加重平均は時間額1,121円、最高は東京1,226円、最低は高知・宮崎・沖縄1,023円(令和7年度)
- 🔴 判定に入らないのは 賞与・残業代・休日割増・深夜割増・精皆勤手当・通勤手当・家族手当。看護師は夜勤手当の扱いに注意
- 計算は4ステップ:除外分を引く → 年間所定労働時間 → 月平均で割る → 最低賃金と比べる
- 基本給は賞与・退職金・残業単価・昇給すべての計算根拠。手当で盛られた総額に惑わされない
- 下回っていたら差額を請求できる(最低賃金法第4条第2項)。労働局・労働基準監督署に無料で相談できる
参考
- 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(令和7年度)
- 厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」
- 神奈川労働局「最低賃金の計算例」
- 最低賃金法(第4条)