精神科訪問看護の看護師の条件とは?経歴で当てはまるかの判定表と、経験が足りないときの3つの道
精神科訪問看護(「精神訪問看護」と呼ばれることもあります)は、看護師免許があれば誰でも担当できるわけではありません。訪問看護ステーションが「精神科訪問看護基本療養費」を算定するには、訪問する看護師一人ひとりが国の定めた条件を満たし、ステーションがその人の名前を地方厚生(支)局に届け出ている必要があります。
条件は4つあり、どれか1つに当てはまれば足ります。精神科病棟の経験が無くても、20時間以上の研修を修了すれば条件を満たせます。この記事では、4つの条件を自分の経歴に当てはめる判定表と、経験が足りないときの選び方、働き始めてからの現実を順にまとめます。
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精神科訪問看護を担当できる看護師の4つの条件
根拠は、厚生労働省の通知「訪問看護ステーションの基準に係る届出に関する手続きの取扱いについて」(令和8年3月5日 保医発0305第9号)の届出基準です。精神科訪問看護を行う保健師・看護師・准看護師・作業療法士は、次のいずれかに当てはまる人でなければならず、当てはまらない人の訪問では精神科訪問看護基本療養費を算定できないとされています。
| 条件(通知の文言) | |
|---|---|
| (1) | 精神科を標榜する保険医療機関において、精神病棟又は精神科外来に勤務した経験を1年以上有する者 |
| (2) | 精神疾患を有する者に対する訪問看護の経験を1年以上有する者 |
| (3) | 精神保健福祉センター又は保健所等における精神保健に関する業務の経験を1年以上有する者 |
| (4) | 国、都道府県又は医療関係団体等が主催する精神科訪問看護に関する知識・技術の習得を目的とした20時間以上を要し、修了証が交付される研修を修了している者 |
(1)〜(3)は「経験1年」、(4)は「研修の修了」です。経験と研修を両方そろえる必要はありません。
研修で条件を満たす場合に必要な中身
(4)の研修は、次のアからクまでの内容を含むものと決められています。
- ア 精神疾患を有する者に関するアセスメント
- イ 病状悪化の早期発見・危機介入
- ウ 精神科薬物療法に関する援助
- エ 医療継続の支援
- オ 利用者との信頼関係構築、対人関係の援助
- カ 日常生活の援助
- キ 多職種との連携
- ク GAF尺度による利用者の状態の評価方法
クのGAF尺度は後から加わった項目です。令和2年3月31日までに研修を修了した人は、クを受講していなくても差し支えないとされているので、古い修了証でも条件を満たします。
准看護師も担当できるが、計画書は作れない
4つの条件の対象には准看護師も含まれます。ただし、精神科訪問看護計画書を作成するのは「相当の経験を有する保健師等(准看護師を除く)」と定められています(令和8年3月5日 保発0305第19号)。准看護師は訪問を担当できても、計画書の作成は看護師などが行います。
自分の経歴で精神科訪問看護の条件を満たすかの判定表
よくある経歴を、4つの条件に当てはめました。判定が「要確認」のものは、通知の文言だけでは線が引けないので、勤め先のステーションか管轄の地方厚生(支)局に確かめてください。
| 今までの経歴 | 当てはまる条件 | 判定 |
|---|---|---|
| 精神科病院の精神病棟に1年以上勤務した | (1) | 満たす |
| 精神科を標榜する総合病院の精神科外来に1年以上勤務した | (1) | 満たす |
| 精神科を標榜する病院だが、勤務していたのは内科などの一般病棟 | (1)には当たらない | 研修(4)を検討 |
| 精神病棟の勤務が8か月で退職した | (1)は1年に届かない | 研修(4)を検討 |
| 一般の訪問看護ステーションで、精神疾患のある利用者を1年以上担当した | (2)の可能性 | 要確認(どの利用者が対象になるか) |
| 保健所・精神保健福祉センターで精神保健の業務を1年以上 | (3) | 満たす |
| 精神科の経験は無いが、20時間以上の精神科訪問看護の研修を修了した | (4) | 満たす(修了証が必要) |
| 研修を受けたが、20時間未満・修了証が出ない研修だった | どれにも当たらない | 満たさない |
| 急性期病棟・外来・クリニックのみで、精神科・研修の経験なし | どれにも当たらない | 満たさない |
判定で迷いやすいのは2点です。
1つめは、(1)の「精神病棟又は精神科外来」の範囲です。病院が精神科を標榜していても、勤務先が一般病棟なら(1)には当たりません。
2つめは、(2)の「精神疾患を有する者に対する訪問看護の経験」です。一般の訪問看護で精神疾患のある利用者を担当していても、それを経験として数えられるかは利用者の状態や担当の実態によります。自分で判断せず、届出を出すステーションに相談してください。
届出は「人ごと」に出す
精神科訪問看護基本療養費の届出書(別紙様式1)には、訪問する看護師等の氏名・職種と、(1)〜(4)のどれに当たるかと経験内容を1人ずつ書きます。研修で条件を満たす人は、研修の名称・実施主体・修了日・氏名がわかる文書を添付します。
転職先で精神科訪問看護を担当するなら、ステーションはあなたの名前を加える変更の届出を出すことになります。算定できるのは、月末までに受理されればその翌月から、月の最初の開庁日に受理されればその月の1日からです。入職してすぐの月は、担当の開始時期をステーションと相談しておくと安心です。
転職の前に手元にそろえておきたいもの
- 精神病棟・精神科外来の勤務期間がわかるもの(在籍証明書、辞令など)
- 研修の修了証(20時間以上・修了証が交付される研修のもの)
- 保健所などでの勤務期間がわかるもの((3)に当たる人)
精神科の経験が足りない看護師が選べる3つの道
判定表で「満たさない」「研修(4)を検討」になった人の選び方を、条件で分けました。
| 選ぶ道 | 向いている条件 | 注意すること |
|---|---|---|
| A. 20時間以上の研修を受けてから精神科訪問看護へ | 精神科の利用者を担当したい気持ちがはっきりしている。訪問看護の経験もある | 研修だけでは現場の経験は埋まらない。同行訪問の期間があるステーションを選ぶ |
| B. まず一般の訪問看護で働き、慣れてから精神科へ | 訪問看護そのものが初めて。1人で訪問する働き方に慣れていない | 精神疾患のある利用者を担当しても、(2)の経験として数えられるとは限らない。精神科を担当したくなったら研修(4)が確実 |
| C. 今は精神科訪問看護を選ばない | 精神科の看護に関心が薄い。オンコールや1人訪問の負担が今の生活に合わない | 精神科訪問看護の届出が無いステーションでも訪問看護の求人は多い |
A. 研修を受けるときに確かめること
研修は、国・都道府県・医療関係団体などが主催するものが対象です。厚生労働省の疑義解釈(平成26年7月10日事務連絡)では、全国訪問看護事業協会、日本訪問看護財団、日本精神科看護協会が主催する当時の研修が該当すると示されています。現在の講座名・日程・受講方法は各団体で確かめてください。
受講前に確かめたいのは次の3つです。
- 休憩を除いて20時間以上か
- 修了証が交付されるか(遅刻・欠席があると交付されない研修もある)
- アからクまでの内容が含まれているか
すでに働いているステーションが精神科訪問看護の届出を考えている場合は、研修費を職場が負担してくれることもあります。受講の前に相談してみてください。
B. 一般の訪問看護から始める場合
病棟から訪問看護に移る人にとって、最初の壁は「1人で利用者の自宅に行く」ことです。精神科かどうかに関係なく、訪問看護の働き方そのものに慣れる期間を取るのは理にかなっています。訪問看護に移るための基本は訪問看護師になるにはどうすればいい?にまとめています。
精神科の病棟で働く適性が気になる人は、精神科看護師に向いている人・向かない人も参考になります。
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令和8年度改定で精神科訪問看護の看護師要件は変わったか
2026年6月施行の令和8年度診療報酬改定で、看護師個人の4つの条件は変わっていません。地方厚生局が公開している届出一覧でも、精神科訪問看護基本療養費は「新規」「要再届出」の対象になっていません。
変わったのはステーション側の評価です。精神科訪問看護に力を入れるステーション向けに、「機能強化型訪問看護管理療養費4」が新しくできました。主な要件は次のとおりです。
- 常勤の看護職員が4人以上
- GAF尺度が40以下で入院歴などの条件に当たる利用者、または精神科重症患者支援管理連携加算を算定する利用者が月7人以上
- 医療機関、障害福祉サービス事業者、保健所・自治体などの連携機関が合わせて5以上(うち3種類以上)で、それぞれと年3回以上の面会
求人票や面接で「機能強化型4を届け出ている」と出てきたら、精神疾患の重い利用者を地域の関係機関と連携して支えているステーションだと読めます。そのぶん、担当する利用者の状態や連携の業務量も重くなりやすいと考えておきましょう。
精神科訪問看護の働き方の現実(オンコール・1人訪問・記録)
訪問は基本的に1人
精神科訪問看護も、ほかの訪問看護と同じく1人で訪問するのが基本です。2人以上で訪問したときの加算(複数名精神科訪問看護加算)は、医師が複数名での訪問が必要と認め、精神科訪問看護指示書にその旨が書かれている場合に限って算定できます。看護補助者や精神保健福祉士が同行する場合は週1日までです。
「不安なときは2人で行ける」とは限らないので、面接では次のことを聞いておくと実態がつかめます。
- 入職後の同行訪問は何回・何週間あるか
- 指示書に複数名訪問の記載がある利用者は何人くらいいるか
- 訪問中に困ったとき、事務所や管理者にすぐ連絡がつくか
精神科訪問看護指示書の読み方そのものは、訪問看護指示書の記入例で解説しています。
オンコールの有無はステーションの体制で決まる
利用者や家族からの連絡に24時間対応するかどうかは、ステーションが24時間対応体制加算を届け出ているかで決まります。精神科の利用者に1日2回以上訪問する「精神科複数回訪問加算」も、24時間対応体制加算の届出が前提です。
オンコールの回数や呼び出しの頻度は、ステーションごとに大きく違います。求人票の「オンコールあり」だけで判断せず、月の担当回数、実際に出動した回数、オンコール手当の額を面接で確かめてください。
記録には毎月GAF尺度を書く
精神科訪問看護基本療養費を算定するときは、月の初日の訪問時にGAF尺度で判定した値を、訪問看護記録書・訪問看護報告書・訪問看護療養費明細書に記載します。研修の内容にGAF尺度の評価方法が入っているのはこのためです。
ほかにも、時間に関する決まりがあります。
- 訪問時間は「30分未満」か「30分以上」のどちらかで算定する
- 30分未満の訪問は、医師が短時間訪問の必要性を認めて指示書に書いている場合だけ
- 緊急の求めに応じて訪問したときは、日時・内容・対応状況を記録書に残す
病棟と比べて書類の種類が多く、主治医への報告書も毎月作ります。記録に電子化されたシステムを使っているか、訪問の合間に入力できる環境かも、働きやすさを左右します。
訪問看護の求人を実際に見る
精神科訪問看護を担当できるかは、あなたの経歴と、ステーションが精神科訪問看護の届出をしているかの両方で決まります。気になる求人を見つけたら、「精神科訪問看護の届出があるか」「研修の受講を支援してくれるか」「同行訪問の期間」を問い合わせの段階で確かめておきましょう。
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よくある質問
精神科病棟の経験が10年前でも条件を満たしますか?
通知の条件は「精神病棟又は精神科外来に勤務した経験を1年以上有する者」で、いつまでの経験かという期限は書かれていません。ただし、届出には経験内容を具体的に書くので、勤務期間がわかる書類を用意しておくとスムーズです。
研修はオンラインで受けても認められますか?
通知が求めているのは「国、都道府県又は医療関係団体等が主催」「20時間以上」「修了証が交付される」「アからクまでの内容を含む」の4点で、受講の形式は定められていません。オンラインの研修を選ぶときは、この4点を満たすかを主催者に確認してください。
条件を満たしていないと、精神疾患のある利用者を訪問できないのですか?
精神科訪問看護基本療養費を算定する訪問は、条件を満たした看護師等が行う必要があります。条件を満たさない看護師が精神疾患のある利用者を訪問できるかどうかは、利用者の保険や指示書の種類によって扱いが変わるため、勤め先のステーションに確認してください。
まとめ
- 精神科訪問看護の看護師の条件は4つで、どれか1つに当てはまればよい
- 精神病棟・精神科外来・精神科の訪問看護・保健所などの経験が1年あるか、20時間以上の研修を修了していれば満たす
- 届出は看護師1人ずつ。転職前に在籍証明や修了証をそろえておく
- 経験が足りなければ、研修を受ける・一般の訪問看護から始める・今は選ばない、の3つから選ぶ
- 令和8年度改定で個人の条件は変わっていない。働き方は1人訪問・オンコール・毎月のGAF記録を前提に考える
参考
- 厚生労働省「訪問看護ステーションの基準に係る届出に関する手続きの取扱いについて」(令和8年3月5日 保医発0305第9号)https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/000433555.pdf
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日 保発0305第19号)https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/000433553.pdf
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部を改正する件」(令和8年厚生労働省告示第74号)https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/000433556.pdf
- 厚生労働省保険局医療課「疑義解釈資料の送付について」(平成26年7月10日 事務連絡)https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/iryo_shido/documents/260710gigikaisyakusiryou8.pdf
- 九州厚生局「訪問看護ステーションの基準に関する届出について(令和8年度診療報酬改定)」https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/gyomu/gyomu/hoken_kikan/kango/todokede_r8.html