病院のカスハラ対策は2026年10月から義務化|看護師が患者・家族から受けたときの動き方と職場の確認ポイント
ナースコールのたびに怒鳴られる、家族から「担当を替えろ」「謝罪文を書け」と何度も求められる、面会時間外に病棟に居座られる。こうした場面を「仕事だから」と一人で飲み込んできた看護師は少なくありません。
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が事業主の義務になります。病院・クリニック・訪問看護ステーションも例外ではありません。この記事では、改正法と国の指針をもとに、勤務先が整えるべき体制と、看護師がカスハラを受けたときの動き方を整理します。
なお、この記事は職場の制度と働き方の話に絞っています。認知症や精神症状などが背景にある場合の臨床的な関わり方は扱いません。
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2026年10月から何が変わるのか
2025年6月に公布された改正労働施策総合推進法により、カスハラを防ぐために雇用管理上必要な措置を講じることが、事業主の義務になりました。施行日は2026年10月1日です。あわせて、2026年2月に厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が示されています。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年6月 | 改正労働施策総合推進法が公布 |
| 2026年2月 | カスタマーハラスメント防止指針が公布 |
| 2026年10月1日 | カスハラ対策が事業主の義務に |
これまで法律で事業主に対策が義務づけられていたハラスメントは、パワハラ・セクハラ・妊娠出産等に関するハラスメントなどでした。10月からは、ここに「顧客等からのハラスメント」が加わります。病院やクリニック、訪問看護ステーションを運営する法人も「事業主」として、この義務の対象になります。
病院で起きる「カスハラ」の範囲
指針では、職場におけるカスハラを、次の3つの要素をすべて満たすものとしています。
- 顧客等の言動であること
- 労働者が従事する業務の性質などに照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- それによって労働者の就業環境が害されること
「顧客等」には、施設の利用者も含まれます。厚生労働省のリーフレットでは、施設の例として病院が明記されています。つまり、患者や家族、面会者の言動も対象になりえます。電話やSNSなど、インターネット上の言動も含まれます。
「許容される範囲を超える」言動の例
| 分類 | 指針・リーフレットで挙げられている例 |
|---|---|
| 要求の内容が行き過ぎている | 理由のない要求、契約等で想定しているサービスを著しく超える要求、対応が著しく困難・不可能な要求、不当な損害賠償要求 |
| 手段や態様が行き過ぎている | 暴行・傷害などの身体的な攻撃、脅迫・中傷・侮辱・暴言・土下座の強要、威圧的な言動、継続的で執拗な言動、不退去・居座り・監禁 |
病棟に置き換えると、「特定の看護師を名指しで何時間も責め続ける」「医療上対応できない要求を大声で繰り返す」「ナースステーションに居座って帰らない」といった場面が当てはまりやすいでしょう。
一方で、治療や看護への正当な苦情や要望は、カスハラではありません。説明への不満や改善の申し入れまで封じる制度ではない点は押さえておきましょう。また、リーフレットでは、対策を講じる際に障害者差別解消法(障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供)に留意する必要があるとされています。病状や障害が背景にあるかどうかの判断は、個人ではなく組織として行うべきものです。
勤務先が講じなければならない10の措置
指針では、事業主が必ず講じなければならない措置が示されています。看護師の立場から見ると、「自分の職場にこれがあるか」を確かめるチェックリストとして使えます。
| 区分 | 措置の内容 |
|---|---|
| 方針の明確化・周知 | ①カスハラには毅然と対応し、労働者を保護する方針を明確にし周知する |
| ②カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する | |
| 相談体制の整備 | ③相談窓口を定めて周知する |
| ④相談窓口の担当者が適切に対応できるようにする | |
| 事後の対応 | ⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する |
| ⑥被害を受けた人への配慮の措置を行う | |
| ⑦再発防止の措置を講ずる | |
| 抑止のための措置 | ⑧特に悪質なカスハラへの対処方針を定め、周知し、対処できる体制を整える |
| そのほか | ⑨相談者等のプライバシーを保護し、周知する |
| ⑩相談したことなどを理由に不利益な取扱いをしない旨を定め、周知する |
②の「あらかじめ定めた対処の内容」の例として、リーフレットには次のようなものが挙げられています。
- 管理監督者にその場の対応方針について指示を仰ぐ
- 可能な限り労働者を一人で対応させない
- 犯罪に該当しうる言動は警察へ通報する
- 本部などへ情報を共有し、指示を仰ぐ
病院でいえば、「師長や当直責任者に連絡する」「複数人で対応する」「院内の保安担当や警察につなぐ」といった流れを、事前に決めて職員に知らせておくことが求められるイメージです。
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患者・家族からカスハラを受けたときの動き方
ここからは、看護師個人ができることを整理します。厚生労働省も、一人で抱え込まず、速やかに上司や相談窓口に報告・相談することが重要としています。
その場でできること
- 身の安全を最優先にする。危険を感じたら、その場を離れて応援を呼ぶ
- 可能であれば一人で対応を続けず、先輩・リーダー・師長に交代や同席を頼む
- 職場に「悪質な場合の対応手順」があれば、その手順に沿って動く
- 暴力や脅迫など犯罪に該当しうる行為は、院内の手順に沿って警察への通報を検討してもらう
記録の残し方
後から事実関係を確認してもらうために、記録はとても大切です。診療録や看護記録とは分けて、職場が定めた報告書式(インシデント報告や暴力・ハラスメント報告など)があればそれを使いましょう。
記録しておきたい項目
- □ 日時と場所(病室、ナースステーション、電話など)
- □ 相手(患者本人か、家族か、面会者か)
- □ 言われたこと・されたことを、できるだけそのままの言葉で
- □ どのくらいの時間・回数続いたか
- □ その場にいた人(目撃者)
- □ 自分がとった対応と、報告した相手
- □ 体調や業務への影響(眠れない、出勤がつらい、など)
感情的な評価より、「何時何分に、何と言われたか」という事実を短く残すほうが、確認の場面で役立ちます。
報告の流れの例
- その場の責任者(リーダー・当直責任者)に口頭で伝える
- 当日中に、所定の書式で報告する
- 師長や相談窓口に、今後の対応(担当変更、複数対応など)を相談する
- 心身に影響が出ていれば、そのことも伝え、配慮を求める
指針では、相談したことを理由とする不利益な取扱いをしない旨を定めて周知することも、事業主の措置に含まれています。「言ったら評価が下がるのでは」とためらう必要はありません。
訪問看護で働く人が気をつけたいこと
訪問看護は、利用者の自宅という閉じた空間で、一人で訪問することが多い働き方です。そのぶん「一人で対応させない」という原則を実現しにくい面があります。
厚生労働省は、医療現場と訪問看護における暴力・ハラスメント対策として学習教材を用意しているほか、訪問看護師向けに位置検索機能や緊急呼び出し機能のついた防犯ブザーなどの整備にも触れています。複数名での訪問の判断、訪問前の情報共有、緊急時の連絡手段などを、事業所で確認しておきましょう。
勤務先に体制がないときの相談先
2026年10月以降も、すべての職場ですぐに体制が整うとは限りません。院内の窓口が機能していないと感じたときは、外部の窓口を使う方法があります。
| 相談先 | 内容 |
|---|---|
| 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) | ハラスメント対策に関する法律を所管する窓口。事業主の措置についての相談ができる |
| あかるい職場応援団(厚生労働省) | 職場のハラスメントの基礎知識や対策の情報をまとめた厚生労働省のポータルサイト |
| 警察 | 暴行・脅迫など犯罪に該当しうる行為 |
| 日本看護協会の情報 | 看護現場のハラスメント対策の資料をまとめて公開している |
労働局に相談するときも、先に紹介した記録があると状況を伝えやすくなります。
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看護学生・実習生に関係する改正もある
同じ2026年10月1日から、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置も事業主の義務になります。対象の「求職者等」には、採用面接やインターンシップの参加者に加えて、看護実習などの実習を受ける人が含まれると明記されています。
実習先や就職活動先で、職員から性的な言動を受けた場合も、我慢すべきものではありません。学校の教員や、実習先・応募先の相談窓口に伝えましょう。
転職時に「職場の体制」を確認する質問例
カスハラへの向き合い方は、職場によって大きく差が出ます。応募や面接の段階で、次のような質問をしておくと、入職後のギャップを減らせます。
- 「患者さんやご家族からの暴言などがあった場合、どなたに報告する流れになっていますか」
- 「対応が難しいケースでは、複数人で対応したり担当を替えたりすることはありますか」
- 「ハラスメントの相談窓口は、どの部署が担当していますか」
- 「スタッフ向けに、暴力やハラスメントの研修はありますか」
- 「(訪問看護の場合)トラブルが予想されるお宅に、複数名で訪問することはありますか」
答えが具体的であるほど、実際に運用されている可能性が高いと考えられます。「現場の判断で」とだけ返ってくる場合は、手順が決まっていないのかもしれません。
看護師の求人を探す
患者さんやご家族との関わりで悩んだ経験がある方は、スタッフを守る体制が整った職場を選ぶことも一つの方法です。勤務地や雇用形態から求人を探し、面接で体制を確認してみてください。
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よくある質問
Q. 患者さんからのクレームはすべてカスハラになりますか?
なりません。指針では、顧客等の言動が「社会通念上許容される範囲を超えたもの」で、就業環境が害されるものをカスハラとしています。治療や看護への正当な苦情や要望は含まれません。判断に迷うときは、一人で決めずに上司や相談窓口に共有しましょう。
Q. 小さなクリニックも対策が義務になりますか?
クリニックを運営する医療法人や院長も労働者を雇う「事業主」にあたるため、2026年10月1日から措置を講じる義務の対象です。ただ、実際の体制づくりの進み具合は職場ごとに異なります。相談窓口がどこか分からない場合は、院長や事務長に確認してみましょう。
Q. 相談したことで不利な扱いを受けないか心配です
指針では、相談したことなどを理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知することが事業主の措置に含まれています。院内で相談しにくい場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談する方法もあります。
まとめ
2026年10月1日から、病院・クリニック・訪問看護ステーションなどの事業主に、カスハラ対策の措置が義務づけられます。勤務先には、方針の周知、相談窓口の設置、事実確認と再発防止、悪質なケースへの対処体制などが求められます。
看護師個人としては、一人で対応を続けない・事実を記録する・当日中に報告するの3点を意識しておくと、組織の対応につなげやすくなります。職場に体制がないと感じたら、外部の相談先も活用しながら、自分を守れる環境を選んでいきましょう。